施設に入居して以来

半年以上診てきた90過ぎのおばあさん

入居当初から

認知症があって

やたらと医者の事を警戒して

暴言も多く

診察するとすぐに追い出される

 

そんなばあさんを

俺は嫌いだった

俺も医者の前に人間

俺を嫌う患者さんに対して

優しく気にかけてやるほど

人間が出来ていないのかもしれない

 

採血も基本拒否

頑張ってやっても怒られる始末

生活保護で

皆さんの税金で生かされている自覚もなければ

キーパーソンが不明で

今後の方針も相談できない

そんな中

9月末に全身状態の悪化で入院した

 

11月に帰ってきた時に

人が変わったように丸くなっていた

なぜに???

本人が言うには

「病院では自分がされたくない事を毎日のようにされた

施設でのみんなの優しさが生きる支えだった

早く退院して施設に戻ってきたかった

先生、これからもよろしくお願いしたい」と

実際

日が経ってもそのスタンスは変わる事がなく

優しいばあさんに変わっていた

もちろんこの俺も

親しみを持って診察する事が出来たのだが

12月に入りまた熱が出たのだが

本人は病院に行きたくないと言うし

食事摂取もままならないため

このまま亡くなる事も想定された

 

改めてキーパーソンを確認したのだが

どうやら入院中に調べられた結果

娘さんに連絡が付くとの事だった

昼間に電話をかけてこれまでの流れを話してみると

本人の性格を十分に理解されており

このまま施設での看取りをお願いしたいとの事

まぁ、本人が嫌がる事をするのは良くないと俺もそう思った

 

すると

施設から連絡があり

連日のように患者さんの親族と名乗る人が

面会に来ては帰っていき

その数が途切れないくらいだと言うのだ

んー

そんな人だったとは

全く読めなかったぞ???

 

今週に入ってから

衰弱の勢いが増し

いよいよ看取りも現実味を帯びてきたと思った矢先

家族が寝泊まりで看病したいとの申し出があり

部屋の中に布団を敷いて

寝泊まりする人も現れた

12日の朝

俺も顔を見たいと思って施設を訪れると

孫さんと名乗る女性が泊まり込みで看病していた

 

正直

ご家族と面会したのはこれが初めてだったため

これまでの経緯や

看取りに対して何もしないことの大切さなどを説明したところ

涙を流して聞いておられた

そして同日18時前

呼吸停止の連絡が入った

18時以降は当直帯の仕事になるこのクリニックでは

この時間帯はもう任せてもいいのでは?と言われたが

俺は自分で看取ってやりたいと強く思ったので

1人死亡診断書を抱えて施設へ走った

すると

先日電話で話した娘さんはもちろん

今朝の孫さんを含めて

総勢10人以上が部屋に詰め掛けていた

みんな各々涙を流し

呼吸停止を悲しんでいた

そんな中、死亡診断を実施し

診断書を作成して

その確認と書類のお渡しのため再度部屋を訪れると

みんな一通り悲しんだ後だったのか

思い出話に花を咲かせていたので

俺もそこに参加させてもらった

 

この数か月の本人のご様子や

最初はとっつきが悪く

俺はそんなに好きになれなかった話などをしたら

みんな笑って、本人のクセの強さを語っていた

ただ…

こんなに家族が多く

またこんなに愛されていたとは思いもよらず

もっと早い段階で

連絡できて

お会いして

皆さんにお伝えすべきだったと謝ると

一人暮らしをして

自分が弱ったりしたことを語る人ではなかったので

こうして連絡貰えて会う事が出来ただけでも良かったと

皆さん感謝して下さった

 

人には色んな人生がある

生活保護を受ける独居のばあさんで

性格にもクセがあって

嫌われキャラだったかもしれないが

実は血縁者はみんな本人が大好きで

温かみのある人間だったことを最後に知ることができて

本当にいい人に出会えたんだなと改めて実感できたし

こうしてみんなに見守られた中での看取りができて

本人もきっと喜んでいるだろうなぁと感じた

なにより

眠っているかのような穏やかな顔つきが

その証左だろう

 

その人となりを

わずかな期間だけで判断して決定づけるのは難しい

長い歴史があればあるほど

そこには理由だって存在する

もし少しの気づきがあれば

大きく変わることだってあるかもしれない

それを肝に銘じて

また前を向いて歩こうと思う