昨日

60代の女性が亡くなった

病名は、脳腫瘍

右側頭葉膠芽腫という病気で

大学病院にかかっていたが

いよいよ治療が難しくなり

施設での看取り方針となっていた

 

キーパーソンは旦那さん

入居時は当然だが

経過中も何度かお話を重ねて…

昨日とうとう旅立って行かれた

息子さんも娘さんもおられる

それでもまだ60代

まだまだやりたいこともあっただろうし

子供が巣立ってからの

夫婦の老後だって

やり残したに違いない

 

約2週間前

旦那さんが決意した

「もう治療は良いです

このままここで過ごさせてやってください」

積極的な治療をせず

起こりうる病状に対して

適切な治療の身を行い余生を全うする事を

Best Supportive Care

通称BSCという

しかしこの方は

特に強い痛みも伴わなかったため

麻薬の投与もしなかった

ただ、脳腫瘍は

頭蓋内圧が上昇しやすいため

吐き気の症状がつらい人が多い

この方も少しはあったが

それで苦しむほどではなかった

 

一昨日の夕方

施設から報告があり

左右の瞳孔に差があり

血圧も低く、不安定になっている、と

ご家族に報告し

早い段階で会って頂く事を推奨した

昨日訪問した際にはご主人がいて

夜間にみんな対面できたとおっしゃっていた

お会いしたご本人は

意識はもうなくなっており

軽く肩で呼吸していた

苦しそうな顔はされていなかった

 

廊下に出るとご主人から

「先生、あとどれくらいですか?」と

こういう時

俺は着地点をわざと手前に設定する

人は、死を受け止める際

自分が思ってたより伸びた場合には

頑張ったと評価するが

早くなくなった時には

どうしてこんなに早く亡くなったんだと

周りや自分を責める傾向にあるからだ

もちろんこの時も

ここ数日かなと思っていたが

「今日明日に急変する可能性が高いです」と

お伝えしたら

旦那さんは、明らかな落胆を見せた

 

そしてその日の夕方

俺は別件で往診に出かけていたのだが

呼吸停止の一報が入った

俺の中でも、予想以上のスピードだった

恐らくだが

癌の衰弱ではなく

脳腫瘍の圧迫で

脳ヘルニアが起き

呼吸中枢にダメージがあったのだろう

 

施設に到着した時には

ご主人と息子さんがいた

「思ってたより早かった…」と

ご主人はぽつりとつぶやかれた

顔は穏やかで

さっきまでの苦しそうな呼吸からは

解き放たれていた

顔色だけが

先ほどが嘘のように

蝋人形のように変わり果てていた

 

人の命は

予測なんてできない

徐々に衰弱していても

直線的なグラフになんて絶対ならない

そこには何かしらの力が

絶対働いている

耳は最後まで生きており

家族の声掛けだったり

周りの雰囲気を察知することも多いと思う

ちょっと目を離したすきに…

なんてのはこの典型だと思っている

家族の「あとどれくらい…」の質問に対する答えは

永遠に迷うテーマになるだろう

 

デスノートじゃないけれど

人の頭の上に

あと何日で死ぬかの数字が見えるようになったら

どれだけこの仕事が楽にできるか

時々考える事がある

でももし

そんな能力が身に付いたら…

きっと医者じゃなくて

宗教の教祖にでもなっているだろな

(´;ω;`)ウゥゥ