施設のおばあちゃん

認知症というのか、正確というのか

とにかくキャラの濃い方がいる

 

キーパーソンは娘さんで

仕事は介護職

なので施設でのあり方に関しては

家族の気持ちも、施設の気持ちも

どちらもご理解して頂けていた

ただ…親子間に確執があり

本人からの電話は拒否設定にしている

といった感じ

 

今から約2か月ほど前

急に左の踵を痛がり出した

見た目には何ら問題がない

褥瘡形成しているわけでもないし色調変化や熱感などもない

正直、原因がわからなかった

認知症特有の痛みの閾値が低いせいで

オーバーに痛がっているだけなのかもしれないとも思った

しかし、そっと触れるだけでも痛みがあって足を引っ込める

痛みは本物らしい

 

診察の中で

薬を使って痛みを摂ることも提案したのだが

もうかなり昔に左の股関節を整形外科で手術しており

それに起因するものだから、整形外科受診をさせろと言い出した

施設としては、ご家族さんが病院に付き添えるならもちろん拒否する理由はないとのことだったが

娘さんの返答は、仕事が忙しいため、NOだった

そこで俺は思いつく疾患を治療するため、投薬を開始した

まずはシンプルに痛み止め

次は神経障害を考えてビタミン剤

痛みが消えないため、非麻薬性の鎮痛剤

腰椎脊柱管狭窄の可能性から、それ相応の薬…

と色々試したが、ことごとく本人が「薬を飲むと気分が悪くなる。早く整形外科に連れて行け!」だった

娘さんに再度相談

「もう死んでしまっても文句は言いませんので、精神的に落としてもらって結構です」だった

俺ももう仕方がないのかと思い、あきらめかけた時

施設側から、連れて行ってあげますので紹介状を書いてください、との返事あり

こちらとしては家族の意向もあったが、通院できるならそれに越したことはなく

お願いする事にして、病院の整形外科外来の予約を取った

 

診察日までかなり日があった状況であったが

先週末、急に足の色が赤黒く変色し始めた

そして踵には1円玉大の潰瘍形成

報告を受けたのは月曜日の事だった

これって、整形疾患ではなく…循環障害や動脈閉塞?

やばい、急がなきゃ

頭を最悪の状況がよぎる

大急ぎで病院の循環器内科を予約して行って頂いた

形成外科も参戦して、出された診断結果が…

「足の切断が必要」だった

 

ご家族様に直接病院へ行っていただき

向こうの見解を聞いて頂いた

結果的には、もう大手術に耐えられる年齢でもなく、体力もないため

感染症や敗血症も覚悟の上で、施設で処置継続して、看取り方針…であった

致し方ない方針だとは思ったが

痛みのみの状況で、他に情報がない場合の判断は非常に難しい

整形でいうところの切断というのは、拡大傾向にある

足の指を切断するのであれば、そこよりかなり上の足首か、もしくは膝下になるし

足首の病変だったら、股関節から切断してしまう

これは絶対的に健全な部位で切断しなければ、術後の予後が悪くなることから、当然の対応である

しかし一口に切断といっても、本人や家族には重くのしかかるイベントである

それを見抜けなかった俺は、看取りで構わないという家族の決断に救われたのかもしれない

もし家族が怒り狂った場合、言い訳は大変だったと思う

訴えられたとしても、こちらが負ける要素はないようにカルテは作っているが

家族の心情を考えると、それとは話が別である

 

現在

全身に感染が波及しているのか、急激に意識状態の悪化を認め始めている

このまま亡くなってしまうのかもしれないが

俺はまた一つ罪を背負って生きる事になるのかもしれない

同じ状況の患者さんが発生した時に同じミスをしない事が

医者としての成長

精進とはまさに過去を背負って生きる事だと思う

 

足の痛み

足に限らず、色んな場所を痛がる患者さんたち

常にいろんな病気を考えて診察を行うが

続いた時の対応は常に考えておかなければならないと

改めて肝に銘じる