昨日

15時から退院カンファレンスがあった

元々施設に胃癌末期で入居していた96歳になるおばあさん

俺が来る少し前に入院され

今回退院するにあたって、俺が主治医になったため

色々と準備しないと、と思い

まずは娘さんに自己紹介を兼ねて電話したのが一週間ほど前だった

 

96歳の高齢であること

病院ではIVHポートから高カロリー輸液を1日1000ml投与されている事

幽門部の癌はほぼ閉塞しており、胃液が十二指腸に流れて行かないため、経鼻チューブで排液をしている事

意思疎通はほぼできない状態である事

癌からの出血が持続しており、貧血状態になっている事

 

これらを鑑みて

退院してくるのであれば、点滴を中止し

自然な形で見送る事を提案した

しかし娘さんは

点滴を止めたら死んでしまう、という事にこだわり

なかなかこちらの提案には乗って下さらなかった

しかし、これは俺がごり押しで決定すべきことではない

あくまで「提案」するだけで、どの道を歩むか選ぶのはあくまで残されるご家族だ

まぁいい

退院カンファレンスで病院を巻き込んで

自然で楽な最期に調整できるよう、持っていけばいいだけだろう

そう考えていた

 

そして迎えた昨日のカンファレンス

現れたのは60代後半に見える内科の主治医

歳は取っているが、バリバリ現役で、俺様ムードがまだ色濃く見えた

ただ、今どきまだフェイスシールドを着用している

コロナ対策?

だとしたらかなり時代遅れだな…

 

一通りありきたりな内容でカンファは進む

点滴は相変わらず1日1000ml入れていて、胃管からの排液も1日600mlほど出ているとの事

点滴やめりゃ減るだろうに…そう腹の底では思っていた

そして最後に質問は?の時に、俺はとりあえずジャブを放った

「これほど状態悪ければ、点滴中止にしてナチュラルコースに乗せてあげれば、胃液や痰などの余剰な分泌が減って、楽な最期を迎えられると思うんですが…?」と

するとその医者は

「点滴止めたらどうやって生きていくんだ?必要最低限の治療はしないとダメだろうが」と

(。´・ω・)ん?

「先生、おっしゃる通りなんですが、癌からの出血もあって状態悪いんですよね?胃液の分泌量も明らかに多いですよね?こんな高齢で小柄なおばあさんに、最後まで点滴するのはどうかと思うんですが…」と投げかけると

「確かに治療目的でやる事はないけれど、最後までやれることは最大限にやった方が良いに決まっている。もし貧血が進むなら病院に来ればいい。輸血すればまた元気に施設に戻れるだろう」

(。´・ω・)ん?

あ…こいつ、あかんやつかもしれん(;´・ω・)

 

話題を変えよう

「クリニックから施設まで、高速飛ばして30分くらいはかかる、やや遠い場所で

もし何らかのトラブルで、胃管が詰まったり、抜けたりしたら、当院では対応できないと前もってお伝えしていたと思うのですが

その場合はこちらに連絡して、再挿入をお願いして良いでしょうか?」と確認の意味を込めて聞くと

「詰まったり、抜けたところで、大至急入れる必要なんてないよ、君。

この人は片方の鼻が閉塞しているので、右から入れるんだよ。

ちょっとコツはいるけど、何も難しい事はない。

胃に入ったかどうかは、シリンジで空気を入れて聴診器で聞けばいい。

だいたい鼻孔から55センチくらいまで入れて、注射器で空気を送れば音は聞こえるはずだから。

病院ではレントゲンで確認しているけれど、別に入れられない事はないと思うよ?フフッ…」

 

だーーーーめだぁーーー、こいつぁ頭が化石でできているかもしれん~(◎_◎;)

ちゃいまんがな…

手技の話してまへんねん

トラブル時の対応として、病院が受け入れるか確認しただけでんねん

経鼻の挿入なんて、目をつぶってでもできるスキルありまんねん(;´・ω・)

 

「私は今から用事があるので、これで」と去って行ってしまった

言うだけ言って、人の話を聞かないタイプ

そして退治したかのような優越感とともに、気持ち良くなって去って行く後ろ姿

あぁ、こんな奴に治療される患者さんがかわいそうでならん

少しでも早く、こいつに時間が流れて退職しますように、と祈って見送った

 

さて

カンファレンスは続き

話が終わりに近づくと

娘さんが「もし貧血進むなら輸血したらいいと思うんです。先生はいつでも受け入れると言って下さってたし、母もそれを望んでいると思うんです。だってまだまだ顔に生きてたいって書いてありますから」と

この娘さん、さっきの自己紹介の時に保健師してるって言ってた

保健師は、看護師だ

医療知識を持っているにもかかわらず、死に対しての受容や認識が薄い

ただ何度も言うがこればっかりは家族の思いであって、否定するものではない

望みは自由だ

総合的に見て、何とかしてやりたいって家族の思いが熱く

病院側も、助けて欲しければいつでも来なさい

のパターンであれば、俺の出番はない

調子悪くなったら、早めに救急搬送だわ

あとはそっちで良きに計らって下さい

 

久しぶりに

あんな頭の固い医者を見たわ

今まで病院から出た事もなく

今の看取りについての認識を高めるような勉強会にも参加したことがない

コンサバな医者

それでも自分が最高権力者のような

勘違いしてる医者

あんなんが今の医療をダメにしている

俺が絶対正義とは言わないけれど

人の考えに耳を貸す医者に

俺はなりたい

 

にしても

あの娘も娘やで

お母さんが大好きなのはわかるけど

顔、そんなに生きたがってるようには見えんかったで?

鼻から管入れられて

口から痰の吸引されて

「生きたがってる」じゃなくて「逝きたがってる」の間違いじゃないの?

なんだかなぁ

明日の朝一番に施設に退院してくるって事だけど

おばあさん本人に罪はないし

俺も主治医になったからには、最善を尽くしたいから

昼からでも会いに行こうと思う

 

このおばあさんにとって一番幸せな最期って、なんだろうなぁ…(;´・ω・)