大内氏第二十四代当主・大内弘世は、「山口開府の父」と呼ばれる。
南北朝時代、父・弘幸の弟にあたり、分家・鷲頭家を継いでいた長弘が一族の中で勢力を拡大し、北朝武家方の周防守護に任命されていた。弘世は南朝天皇方につくことで、鷲頭家に対抗。家督相続後、同じく代替わりして長弘の子・弘直が継いでいた鷲頭家と全面対決の上、これを撃破した。長門を地盤としていた厚東氏も滅ぼし、防長二ヶ国を統一した。
周防・長門の守護職を認めさせることを条件に、北朝武家方に転向し、南北朝といういびつな歴史を利用し、勢力を拡大し、防長両国の覇王であり続けた。本拠地を大内の地（大内御堀）から山口に移し、現在の大内氏館を本拠地とした。
大内氏館前には萩往還が存在した。
大内氏館の萩往還向かい側に小さな観音堂がある。
石山観音堂だ。
案内板を転記すると
「安永3年（1774）浄土宗善生寺住職浄誉天髄が地元の古老の口実を聞き取り、書き取った文書を善生寺16世寛誉嶺光が文化8年（1811）に書き改めた「周州吉敷郡山口庄竪街 観音堂縁起」によると、大内氏24代大内弘世が康暦2年（1380）に下竪小路に楼閣を建立し、大内氏北廰（庁）の持佛聖観世音菩薩を奉安しました。
しかし、永禄12年（1569）大内輝弘が豊後より山口に乱入した折に観音堂は焼失しましたが、本尊と厨子（大内菱の紋あり）は焼け残り、その後、里人は力を合わせて観音堂のあった場所に小堂を造り、本尊を奉安したということです。
現在の観音堂は、廃屋同然になっていたものを取り壊し、平成25年（2013）建立したものです」
石山観音堂は常栄寺観音堂だ。この木造聖観音菩薩立像は、有形文化財に指定されている。
常栄寺が管理しているのかな。宝篋印塔、墓石等の由来は不明だ。
この案内板にある「大内輝弘」が毛利元就史の後半キーワードとなる。
毛利元就に滅ぼされた大内家、尼子家では、弘治３年（1557）に大内家臣らが大内義隆の遺児・問田亀鶴丸（といだきかくまる）を盟主として挙兵した出来事があった。永禄１１年（1568）に尼子氏一族の生き残りである尼子勝久を還俗させて担ぎ出し、再興を狙う動きがあった。一方でそれと示し合わせるように九州では大内義隆の従兄弟である大内輝弘が御家再興をめざして立ち上がった。
元就が気を休めることのできない日々は、まだまだ続いていた。
元就はこの頃、九州・四国へと進出していた。永禄１２年（1569）吉川元春、小早川隆景を中心に博多の要衝・立花山城を攻め、豊後の王・大友宗麟を追い込んでいる最中だった。
すでに立花山城を落とした毛利は多々良浜で大友軍と戦っていたが、大友氏は毛利軍を撤退させるための攪乱作戦を実行した。それが、大内輝弘の乱と言われる大内輝弘の山口侵入だった。
山陰の尼子勝久、山中鹿介らによる尼子再興軍の侵攻もあり、大友宗麟はこれと呼応する形で毛利の背後をかく乱し、撤退させようと画策した。
大内輝弘は、義隆の父・義興の異母兄弟である大内高弘の子で、義隆の従兄弟にあたる。大内家は当主の座をめぐって御家騒動が多かった一族で、高弘は大内家家臣と大友氏に担ぎ上げられて謀反を起こし、失敗して大友氏の食客として九州で過ごしていた。
10月11日、大友の支援を受ける輝弘の軍は当初２０００程度だったが、大内再興の動きを大内遺臣が知り、軍勢はおよそ６０００まで膨れ上がった。輝弘は兵に守られながら築山館跡に侵入してそこを占拠し、毛利が守る高嶺城を攻撃し始めた。
城主・市川経好は出陣中で留守だったが、留守を守っていた毛利軍の守備により、城は守られた。経好の妻が自ら甲冑を身につけて陣頭指揮にあたったという。輝弘の山口占拠が元就に知らされたのは10月13日のことだった。元就は元春と隆景に立花山城を捨てて撤退するよう命じた。優勢だった軍を撤退させる元就の決断に元春、隆景は反対したという。
10月21日、山口には元春が向かった。福原貞俊、熊谷信直ら１万の軍を引き連れていた。輝弘は、逃走し、騒乱はあっという間に収束した。わずか半月あまりの出来事だった。
毛利は、東から迫る織田信長の勢力との戦いが始まり、九州進出に力を入れるどころではなくなってしまった。大友は毛利軍の攻撃に煩わされることがなくなった。大友宗麟は、大内家再興を成功させようなどとは考えていなかった。撤退する毛利軍の追撃もしなかったことでも、輝弘を捨て駒にしたことがわかる。
