上杉謙信を翻弄した軍師  白井入道浄三 | 大根役者

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NHK大河ドラマ天地人も終盤を向えている。風林火山の山本勘助、天地人の直江兼続と軍師に焦点をあわせたドラマ作りにはそれなりに見ごたえはあるのだが、この両者は少なくとも戦いの場での軍師ではない。勘助、兼続とも主家の存続のための政治力で貢献している。勘助の諏訪殿の処置は武田家の支配を決定的にしたが、第四次川中島で取ったキツツキ戦法は上杉に見破られ、武田に大きなダメージを残した。兼続は信長の脅威に対抗するためこう着状態にあった武田方の関係を菊姫を上杉景勝の嫁に迎え、甲越同盟を成立させることにより、主家存続に尽力した。大河ドラマでは重要なファクターになった直江状は後世の偽造とされているのはほぼ間違いないのだろうが(原本がどこにも存在しない不自然さがある)兼続に対する畏怖の念が創作させたものであろう。

上杉謙信は今回も神のように扱われているのだが、謙信を翻弄した軍師がいた。謙信は北条方に追われた安房の里見氏、上総の酒井氏に乞われ、度々、北関東に遠征した。1565年の遠征では、常陸、下総を抑え、翌年3月に当時、小田原北条家の武将原胤貞の居城である臼井城を包囲した。10日ほど攻撃し、堀を残すのみとなった臼井城の命運は風前の灯火といえた。その時、場内にいた原氏の軍師が白井入道浄三である。「白井入道は敵は殺気に満ちている。殺気とはやがて消え去るものだ。それに比べわれらの意気込みは律儀だ。敵が敗北するのは間違いない」と断言した。軍師には、戦術を駆使するものや吉兆を占い呪術的に対処するものがいる。白井入道はやる気を起こさせる軍師だった。白井入道は急に城門を開き、上杉勢を攻撃した。その時、臼井城城兵は二千、上杉勢は一万五千であった。ありえない出来事に上杉勢は混乱した。戦いは壮烈をきわめたが、日暮れとともに白井入道は兵を引き上げた。翌日、前日にあれほど、攻めてきた敵の動きはなかった。謙信は不信に思ったが、総攻撃を命じた。大手門に近づくと土塁が崩落し、謙信軍は土砂の下敷きになった。大混乱のうち城兵たちの反撃が始まり、上杉勢は大量の死傷者を出し、退却し、臼井城の攻略はならなかった。

戦国時代のスーパースターになれなかったが、軍神上杉謙信を翻弄した稀代の軍師がいたことをわすれてはならない。残念ながら白井入道浄三のその後の消息は不明である。