軽い朝ごはんを食べてバタバタと準備をした






洗濯を回したり後片付けをしていたら…








「大野くん!急いで!」





「待って!」








いつもより準備に時間がかかった












「忘れ物はない?」





「多分!」





「よし!」






玄関を出て小走りで駅に向かった









「んふふ…いつもこんな感じですか?」







「いや、いつもは余裕あるんだけど…

あ!新聞買い忘れた!」






「え!」






「今日はいいや」










いつもなら電車に乗る前に新聞を買う







だけど今日はそれも叶わなかった












満員電車に乗るといつもの感覚に戻った







だけど…何か足りない…







あ、そうだタバコ…






吸い損ねた…






だからだ…







毎朝のルーティンが狂う







狂うとソワソワして仕方ない







何か忘れ物をしたんじゃないかって…






グイッ…





え?






スーツの裾を引っ張られハッとした






頭を下に向けると…







大野くんが口を尖らせて俺を見上げた









「…どうした?」






小声で聞くと…






「……」







大野くんがうつ向いてぎゅっと

俺のスーツを引っ張っていた







大野くん…










正直…電車に乗る前から

大野くんの存在を忘れていた…






と言うか…あまりにも日常的過ぎて………











右手はつり革…左手は鞄…







でも大野くんはつり革を持てずに

俺のスーツを掴んでいる…







かと言って満員電車で大野くんを

抱き留めるわけにもいかない…







頑張って耐えてくれ!










ガタッ!





電車が揺れた!






多くの乗客がバランスを崩した!






ガシッ!







大野くんが俺の左腕を掴んだ






そして…俺を見た…









「…すみません…」






小さな声でそう言った…






何だか胸がチクリとした







守ってあげたいけど…できないもどかしさ







これが現実だと思い知らされてる気がした










俺は42歳のおじさんで…







大野くんは……若い男の子…








変に庇えないし……まわりの目が気になる…







もし……二宮くんならどうしたんだろう…







人目を気にせず大野くんを守った?








…俺には…無理だ…














電車が駅に到着した







人の波に押されホームに…







そのまま階段を上がりながら

大野くんの姿を探した…







どこに行った?









改札を出てスッと横にそれた…







大野くん?どこだ?






すると…







「櫻井部長!」







大野くんが俺のところへ走ってきた







「大丈夫だった?」






「…はい」






「じゃ、行こうか」






「…はぃ」







大野くんは俺の後ろを歩いた