最近見付けた家の近くのスーパーで
大野くんと買い物をしている……
なんだか…不思議な感覚だ…
「何作ってくれるんですか?」
ドキッ…!
「えっと…最近で言うと……」
最近習ったメニューを頭に浮かべた…
「あ!ビーフシチューは?」
「好きっ!大好きです!」
ドキッ!
「……」
「櫻井部長?」
「…あ!ビーフシチュー!それにしよう!」
いちいち…
【好き】のフレーズに反応してしまう…
さっきのは俺に向けて
言った言葉じゃないのに…
「僕も手伝いますね」
「助かる!」
「んふふ」
「ふふっ」
一通り買い物を済ませレジに向かおうとした…
「あ!大野くんの飲み物!」
「僕の飲み物ですか?」
「いつも何を飲んでるの?」
「家で飲む時は…ハイボールが多いかなぁ」
「へぇ!ハイボール!」
「でも…凄く薄くしてです…んふふ」
「ふはっ!じゃ、炭酸買って帰ろう」
「はい!」
「一つ持ちます」
「平気平気」
「じゃ…鞄持ちます」
「…いいの?」
「だって僕手ぶらだもん」
「ふふっ…じゃ、お願いします」
「はい」
大野くんはいつもリュックを背負っている
最近の若者はそのスタイルが多い
俺たち世代はリュックなんて
子どもの頃の遠足で背負ってた程度
両手が空くから便利だとは思うけど…
俺のリュック姿なんて滑稽としか思えない
「ふふっ…」
「んふふ…なんですか?」
「いや…俺たちって端から見たら
どんな関係に見えるのかなって」
「……」
「…大野くん?」
「…どう見えてたって関係ないもん…」
「えっ…」
「僕は櫻井部長と腕を組んで歩いたって
平気です」
「!!!」
「…手だって……」
大野くんが自分の左手を見た…
ドキドキ…
あいにく…俺の両手はスーパーの袋で
塞がっている
だから……
いや!塞がってなくたって公衆の面前で!
…って…こういう考えこそ…古いよなぁ…
端からどう見られてるとか…
そういうことを一番に考えるのは…
やっぱり俺が古い人間なんだって思う
仕事では頭は柔軟に…
なんていつも心掛けているはずなのに
結局こういうところで俺の欠点が
出てしまうんだなって…
今さらわかっても…遅いよな?
チラッ…
「大野くん」
「え?」
「その鞄の中に手袋入ってるんだけど…
出せる?」
「手袋…ですか?」
大野くんが俺の鞄の中を探ると…
「ありました!」
「それ、代わりに着けてて」
「えっ…」
「もうすぐ両手が限界なんだ」
「?」
「冷たくて感覚がなくなってきてて」
「え!?」
「先にそれで大野くんの手…温めといて」
「でも…」
「暖まったら教えて」
「えっ…」
「こうして…ここで俺の手を
温めてくれたら嬉しいなって…」
「!!!」