アートで街・人を元気に
子供が体験、新たな発見
第17回アゼリア賞(注1)を受賞したNPO法人Wacss(ワーカス)こと和歌山芸術文化支援協会代表の井上節子さん。姉御肌の気風の良さと、 行動力で引っ張る。「アートを通じてまちを元気にする」というコンセプトのもと、「ワーカス」のプログラムは多彩である。 (中村 聖代)
【人生行路】
和歌山市中之島にあるジャズスポット「セントルイス」に、夜な夜な集まり、盛り上がるメンバーがいた。
井上さんが和歌山放送在籍中の30年程前の話。その仲間がバンドをやろうと言い出し、友ケ島の朽ち果てた舞台の上で手作りコンサートを開く。
総勢200人が押し寄せ、なんと前座に関西ジャズ界の大御所、古谷充さんを迎えたというのだから、その破天荒ぶりは想像にかたくない。
放送局を去り、雑貨店「モダンタイム」を北大工町にオープンさせたのは30歳の頃。20年続いたが、厳父の死をきっかけに新たな活動を始めたのがWacssである。そのときの仲間が現在のスタッフに何人もいる。
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【森のちから】
2000年度みどりの森基金助成活用事業、「森のちからーパートⅡ」は「森の中の芸術学校」と題して中辺路に芸術家3人を迎え、3ヶ月ゆるやかに滞在してもらいながら、子供たちとワークショップを開く。夏休みの終わる8月末スタート。この3月には第1回目が行われた。
「アーチストが地域に滞在して住民と交流し、土地からインスピレーションを受けた作品制作を見せることで、私たちの知らなかった地域の姿やイメージを見せてくれる。潜在的に持っている文化的資源を教えてくれる」という。
【TOUTCH THE ARTシリーズ】
本物のアーティストに触れ、ただ鑑賞するのではなく一緒につくりあげていくワークショップ型が中心だ。最近ではアートキューブで「想い玉」という作品を完成させた。
【ドキドキ少年撮影隊】
年1~2回開催される人気の企画。こどもたちとアーティストが一緒にデジカメを片手に街を歩いて撮影。会場にもどって、 お気に入りの一枚を選ぶ。子供の視点から、街に新たな発見があるという。
感受性の豊かな小学校3、4年のときの体験が、それからの成長の過程で重要な意味を持つと考える井上さん自身も、 そんな時期に不得意だった音楽・美術が、あるきっかけで好きになったという。
おもしろいな!
楽しいな!
と感じられることをたくさん体験させてあげたい。その真ん中にアートがある。
「特別なもの」「高尚なもの」がアートではなく、「楽しい体験を重ねていくことが、人生のアート」だと井上さんは考えている。
【文化力で都市再生】
海外の都市では、たとえば仏のナント(注2)、スペインのビルバオ、英国のグラスゴーなどは演劇・音楽・美術の文化発信力を軸にして、再生に成功している。
停滞気味の和歌山市に井上さんらのアート力が「カツ」を入れることを期待しよう。
アートは活性化だけでなく癒しの力をもっている。その効果は子供たちだけでなく、大人もおおいに蘇生されるはずだ。
(注1)アゼリア賞=和歌山青年会議所文化振興基金が援助。
受賞した表彰式での井上さん
和歌山を芸術性の溢れる街にするのを目的に、学問、芸術などの文化活動を通じて、和歌山の名を全国、世界に高め、地域の文化振興に寄与していると認められる個人、団体に授与される。
(注2)ナント市=仏北西部の港町。
パリから飛行機で1時間。この町は、「芸術的に豊かなこと」が決め手となって、フランス国鉄の予約関連部門やフランス郵政公社の金融関連部門が移転してきた実績がある。魅力ある文化イベントに観光客も大勢やってくる。