@ だいぶ前の作品ですが、観る価値あり





 

   「騒音おばさん」、この言葉に聞き覚えがある方も多いのでは。主婦が絶え間なく騒音を立てるなど嫌がらせを行い、隣家の住人を疲弊させたとして実刑判決を受けた。15年以上前の事件だ。






     着想を得て、生まれた物語がある。映画『ミセス・ノイズィ』。女性監督が脚本も兼任し、無名に等しいキャスト陣を主役に据えたこの映画は、評判が評判を呼び、一年半もの間、各地の劇場で上映が続いた。


 あらすじはこうだ。小説家としてスランプが続く女性・真紀。夫と娘と暮らす家で、突如、隣人のおばさんから嫌がらせを受けるようになる。







   酷い騒音。執筆は進まない。家族とも不穏な空気。苦しむ真紀は、隣人を題材にした小説を書くことでストレスを解消しようとするが、やがて大事件に発展し…。






     物語の中で、真紀は隣人を敵視する。有害なので、騒音動画を撮ってSNSにアップ。瞬く間に拡散する動画に、虫のように集ってくる世間とマスコミ。ネタになるコンテンツは加速したら止まらない。しかし、その情報は正しいのだろうか。







 人間は、ものごとを自分に都合よく解釈してしまう。この欠点は、ネット社会の中で更に危うさを帯びている。 




   私たちが誰かに、何かに、強い感情や印象を抱くとき、果たしてそれは事実なのか? SNSでバズった言葉は、メディアから流れてくる映像は、本当に「そう」なのか?




   映画は途中で視点が切り替わる。騒音おばさんを面白おかしく描いていた物語は反転し、おばさんにとっての「真実」を映し出す。


      自分以外の視点を持つことは不可能だ。だが想像はできる。対話もできる。誰かを傷つける前に、自らを省みる。 


 フェイクニュースという言葉も定着した昨今、情報が氾濫するこの時代に観るべき一本。



   (アガサ・ジューン)


                     わかやま新報女性面掲載