根来塗師 伊藤 恵さん




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  「初音工房」寺内に作る

   動画などから仲間増やす







 塗という伝統の技を受け継ぐ数少ない塗師の一人、伊藤恵さんに根来塗への思いをお聞きしました。伊藤さんは約900年の伝統を誇る和歌山・根来寺の境内で工房を開いています。


 (森下 和紀)






根来塗師への道のり


 

   伊藤さんが根来塗に出会ったきっかけは、「芸術系の大学で日本画を勉強して、中学校で美術の先生になりたいという夢を持っていました。大学卒業の時期が就職の氷河期と言われる年で、教員の採用試験がなく、講師として中学校の美術を3年間担当しました。その夏休みの体験で、生徒と一緒に海南市の黒江塗を体験した時、私の地元の岩出市で根来塗の復興に尽力している人がいることを教えられました」。

 



 伊藤さんは即刻、岩出民族資料館の根来塗指導員養成講座(岩出市伝統伝承事業根來塗講座)に参加しました。先人の根来塗の400年ぶりの復興を目の当たりにして、「自分が生まれ育った岩出市に根来塗という素晴らしい伝統工芸があることに感動し、塗師を目指すということを決意しました。日本画を学び和の文化に造詣を深めたことも少なからず影響したかもしれません」。



 根来寺とのご縁で夢がかなう



   「岩出民族資料館で根来塗の指導員をしながら過ごしていましたが、指導員の仕事以外にも外での仕事も増え、独立して工房を持ちたいという気持ちが強くなりました。桃山町の古民家で工房を開きましたが、やはり根来寺の近くで工房を持ちたいという気持ちが日増しに強くなりました」。


 そんな時、根来寺さんから境内で工房を開くのはどうですかというお声がかかり、既にあった売店を工房にリフォームしてオープンしました。根来塗の工房をオープンするまでには、家族の理解と支えに助けてもらいました。



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 「初音工房」という名称でスタートしました。「“初”めて出会った根来塗の”根”という意味で、初根という響きも良くて、初根にしました。初根工房からいろんな方と繋がって行きたいです。根来塗という伝統工芸を継承していく難しさは、やはり人材の確保です。集中して塗りという作業をしてくれる人とつながればと思っています」。


   さらに「岩出市内の全ての小学校で根来塗を体験してもらうプログラムを提供しています。次世代の子どもたちが根来塗に関心を持ってくれたら嬉しいです」。




 漆の木からつなぐ力を育む


 伊藤さんは漆の木にも目を向けています。根来寺の境内で漆の木を毎年植え続けて、15〜20年後に紀州産漆を採集する“持続可能な漆の森づくり”を考えています。漆の木の生育のための研修も岩手県の漆の産地で受けてきました。根来も漆の産地として、根来塗と同様にブランド化したいです」と伊藤さんは目を輝かせます。


        漆の木


   漆の持つ力を発揮する金継ぎ体験を行っています。   「金継ぎ(きんつぎ)/金繕い(きんつくろい)は、陶磁器で割れたりした破損部分を漆によって接着し、金粉などを使って装飾して仕上げる修復技法です。漆には接着の力があり、使い慣れたものを修復して使うということは、愛着がより強くなります。和歌山県外にも出向いています。修復したところが金粉で金色になりますので、みなさん喜ばれます」と金継した陶磁器を見ながら語ってくれました。


   (わかやま新報女性面)