ブラームスに、ふらっと


 ブラームスからは、肉体の響きが聞こえてくる。心と身体は違うの、いえそのようなものです。名曲『ピアノ協奏曲1番』の甘美さに酔い、愛への慟哭に肉体の深い部分が奮い立つ。重いよっ、ブラームスさん、泣いてしまうじゃないか。




        若き日の物憂げで、深く吸い込まれるような青い目と、風になびくような髪はクララでなくても、私もふらっとなりそう。



 よりによってシューマン夫人が40年間の恋の相手だったとは。          1833年に生まれた街、ハンブルグのせい?それとも赤貧の家庭に生まれ、少年のころ、船員相手の、紫煙と裸同様の女がいる酒場でピアノを弾いたせい?後に天才作曲家になることを誰も知らなくても雨は降るし、風は緑になったり茶色になったり、そうだ神の性にしておこう。



   数年前、ハンブルグの橋の上で私一人を撮った写真の横に、おおきな黒い犬が鎮座していた不思議。私も撮った人も全く解らない。ブラームスに似て魅惑があったなあーー。

 謎は切々と歌う『バイオリン協奏曲ニ長調作品77』。最盛期の傑作、アレッ、クララが消えている。彼が踊っている、太った肉体で、私はわたしであると、哲学者みたいな顔でせまってくる。アブナイッ、捕まったら現実になかなか帰れないよ、源氏物語になってしまうよ。


    (山下はるみ)


    (わかやま新報女性面掲載)