男を翻弄する悪女、いや聖女? 

有吉佐和子の 『悪女について』_e0171960_12185743.jpg
 作家 有吉佐和子は、紀州を舞台にした年代記『紀ノ川』『有田川』『日高川』の三部作、『華岡青洲の妻』など多彩な作品群で知られています。でも『悪女について』を読んだ人はそれほど多くないのでは。

 新潮文庫には、
《自殺か、他殺か、虚飾の女王、謎の死》――醜聞(スキャンダル)にまみれて謎の死を遂げた美貌の女実業家富小路公子。彼女に関わった27人の男女へのインタビューで浮び上がってきたのは、騙(だま)された男たちにもそれと気付かれぬ、恐ろしくも奇想天外な女の悪の愉しみ方だったーー。
というキャッチコピーにひかれて読み始めました。



 最近の大手出版社のネット上のサイトの充実ぶりには驚かされます。

 細かい筋書きは、読んでもらうとして、印象に残ったのはオトコが平凡で、強烈な個性を感じさせる相手役ががいなかったことでしょうか。

 もう一つは悪女と聖女を併せ持つのが母親。そこにひかれる子供っぽさの抜けきれぬ男たち。だから男社会を逆手にとり、しかも女の魅力を完璧に発揮して男たちを翻弄(ほんろう)しながら生きられたわけでしょう。面白いが、ちょっと長いかなと言う読後感も持ちました。

 郷土の誇りでもある有吉さん、53歳の若さで亡くなっていますが、調べてみると色んな興味深いことがわかってきました。  

 中国との縁が深く、国交回復前からも訪れ、天主教(中国におけるカトリックを指す)調査のため半年滞在して『有吉佐和子の中国レポート』を執筆しています。

 まだまだ読んでない小説が多くあります。次は『芝桜』『開幕ベルは華やかに』に挑戦したいと思っています。
                                        (岩田 誠)
  #  #  #




有吉佐和子記念館は、和歌山市出身の作家 有吉佐和子氏(1931~1984)が旺盛な創作活動を行い、ベストセラーのすべてを執筆した東京都杉並区の邸宅を、氏の心の中に流れる青く美しい紀の川のそばに移し、その生涯と馥郁たる内面世界にふれることができるよう復元した施設です。当館は、氏ゆかりの資料を展示するなど、郷土が生んだ有吉佐和子氏の業績を顕彰するとともに、市民の文化振興に資することを目的としています。