映画「妻は告白する」


 あなたは登山にでかけます。夫とあなたと、あなたが好意を寄せている人と3人です。崖が崩れ、夫の命綱を切断しなければ、3人とも死んでしまいます。切断をしたら、夫は死に、あなたとあなたが好きな人は助かります。その代わりに、殺人罪に問われるかも知れません―――





 「あなたならどうする?」

 一つの事件をきっかけに、男と女の愛を突き詰めた逸品があります。1961年に作られた「妻は告白する」。増村保造監督。出演は若尾文子・川口浩・馬淵晴子。原作は、弁護士であり登山家でもある  円山雅也の「遭難・ある夫妻の場合」。


   若尾文子は建築家黒川紀章(故人)の妻で今もその美しさを保っています。女性の持つ妖しさや狂気を、若尾文子が見事なまでに演じていて、雨水を滴らせながら和服で佇む姿は圧巻です。古い白黒作品ですが、今見ても充分に楽しめる映画です。






   原作者が弁護士のため、法廷の場面がよく出てきます。山での遭難を題材に法廷で争う映画は、他にも「氷壁」があります。日本一の美人と言われた山本富士子出演、井上靖が原作。実際に起こったナイロンザイルの切断という社会的事件をもとに、友情と恋愛の確執を、「山」という自然と都会とを照らし合わせて描いたものです。



   ともあれ、女の愛と男の愛の違いは、古今東西、人類全てが感じることで、その溝は永遠に埋まることはないでしょう。だからこそ人類はこれまで繁栄・発展・進化してきたと渡辺淳一は言います。    



 若尾文子が好意を寄せる青年(川口浩)の婚約者、馬淵晴子に言わしめているのは「女は愛が全て。好きな人が血を流し、苦しむ姿を見て、思わずザイルを切ってしまったのよ」。


   ある意味女の本質をついた言葉なのかも知れません。


     (中村 聖代)