悪女役の根岸明美が最後は・・・


 赤線と言う言葉は、若い世代には死語になりつつあるのかもしれない。

 

 売春を目的の特殊飲食街で、警察などの地図に赤線で記されていたことからそう呼ばれた。昭和33年には廃止されている。

 

   その「赤線」と「基地」を一つの言葉にした映画作りは見事と言える内容だ。谷口千吉監督の冴えた演出が見物である。

 

 1953年の作品で、米軍基地問題を、その影響下で生きる人々の目線で描いた作品であり、反米的なテーマのために一時上映見送りとなったほど。



   主役男優は三国連太郎で、相手役の悪女と言ってもいい役の根岸明美が魅了する。米国進駐軍GI相手の女由岐子を演じる。


 

 日劇ダンシングチーム出身で、映画「アナタハン」のオーディションで抜擢されて、主役を務め注目される。166cmと大柄で豊満でありながらも引き締まった肢体で人気を集めた。

 



 しかし肉体派女優と見られることを嫌って、演技を磨き、黒澤明監督の「赤ひげ」「どですかでん」にも出演するなど、演技もできる妖艶な魅力を持った個性派女優だった。


 赤線基地の大まかなストーリーはーー。

 

 10年ぶりに旧満州から帰還してきた三国の役の主人公浩一は、懐しい故郷、富士山麓御殿場の変り果てた姿に驚いた。土地は射撃場に接収され、生活に困窮して部屋の離れをGI相手の女(根岸が演じる)に貸してあった。

 

   彼は10年間思い続けてきた恋人ハルエの消息を聞きただすが、皆言葉を濁して答えなかった。


 最終的に、昔の恋人の変わり果てた姿と、農業以外に仕事がないことから、東京に行く決心をする主人公。


   そして、「真面目になるから」一緒に連れて行ってくれとしがつく由岐子を、浩一はふりきるように引き離した。しかし、バスの中には、うって変った地味な身なりの由岐子が乗りこんできた。浩一は話しかけようとするが、その時響き出した砲声に妨げられた。

 




 秀麗な富士を包んで轟く砲声が何時止むともなく続く中を、無言の浩一と由岐子を乗せてバスは駅へ向つて走って行った。


 赤線と言えば名匠溝口健二の吉原の女たちを描いた「赤線地帯」が有名。どちらかと言えば生々しい女たちの姿を描をリアルに描いていたが、社会的視点は弱かった。

 

 谷口作品は、今でも基地問題を抱える我が国の姿を、すでに半世紀以上前に先取り、活写していたという意味で名作に数えられるのではないか。


 (岩田  誠)


     わかやま新報女性面掲載