『浮遊封館』

       門前 典之著  

   原 書房 1890円   2008年

過去に起こった。
①旅客機墜落事故ーしかし乗客130名の遺体が消失。
②謎の宗教団体の信者消失事件。
③身元不明者の遺体消失事件。
現在に起こる。
①雪密室事件。
その裏で暗躍する謎の教団「奇蹟の光」

 過去、現在のそれらの事件が一つに繋がり全貌が明らかになる。

 時にグロテスクに、時に猟奇的に、そして論理的に解明された驚愕の真実に驚愕する、本格ミステリのファンには堪らない一冊だ。
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 探偵は蜘蛛手建築士。看板には「蜘蛛手建築事務所」の吹き出しに「及び探偵」とある。容貌、正確な年齢、名前は書かれていない。

 ワトソンは宮村。30代のK大の学生。容貌、正確な年齢、名前は書かれていない。
 
 このコンビはキャラとしては、島田荘司の御手洗潔と石岡和己を彷彿とさせ、わたし的には大歓迎であるのは云うまでもない。

      宮村は石岡が御手洗に顎で使われるのように、蜘蛛手に扱き使われる。よくここまで似せて書いたなあと思う。でも好きです!!御手洗潔症候群の方はどうぞお読みください。少しは病が癒えるかも?

  この作品はシリーズ2作目で探偵、蜘蛛手の詳細が分からずもどかしい思いをしたが、3冊目の「屍の命題」で経歴が分かり、胸のつかえが下りました。

    蜘蛛手啓司 33歳、一級建築士。建築士探偵なのだ。篠田真由美の桜井京介は建築家探偵でこちらは建築士探偵。
 
 門前典之は1997年に「唖吼の輪廻」(あくのりんね)(後に「屍の命題」に改題出版)で第7回鮎川哲也賞最終候補になり、「建築資材」で第11回鮎川哲也賞を受賞。

 当時の選考委員は鮎川哲也、島田荘司、笠井潔の本格の鬼の3名。   
 
 門前典之は現在まで長編は「建築資材」「浮遊封館」「屍の命題」「灰王家の怪人」4作品を出版。いずれも一級建築士の知識を応用した本格ミステリーだ。
 
  4作品のうち3作が蜘蛛手シリーズで、とても面白い本格を読めたと保証できる作品だ。

 本格には猟奇的な作品が多くて気分を害する方も多いが、それが本格の本格たる所以である。

 





    (阪井 俊夫)

            わかやま新報女性面掲載