人間は、一人で生きて一人で死ぬ
ずっとそう思って生きてきた
あの施設はそれをよくよく教えてくれた
仲間とは目的が同じ人間が群れていることの総称に過ぎない
自分の足で立ち、自分で見極め、自分で選び取り、自分でケツを拭う
人間はどこまで行っても
一人だ─────
────────ラストノート────────
ユノはその日うんざりしていた
店に現れたのは財閥のボンボン、チェ・シウォン
いつもの様に馴れ馴れしくユノの手を握り肩を抱いてくる顔の濃い男
この男は席で女の子を侍(はべ)らせながらも
『本命は君なんだよ』
などと言ってくる、しかもなまじ嘘でも無さそうなところが一番面倒なタイプだ
笑顔を心がけつつも冷たくあしらい、席へ案内しようとしてふと気付いた
いつもは一人でやって来るシウォンだが、今日はツレがいる
「シム・チャンミン君だ、彼はシムイズムの御曹司だよ
手厚くもてなしてくれたまえ」
「ちょっとシウォンさん、その言い方は」
「本当のことだろう?」
「大企業の御曹司ですか、それはそれは」
だから何だ
確かに金持ちは上客ではあるが
上客の中には馬鹿が多いこともユノはよく知っていた
連れの男はユノやシウォンよりも背が高く、細身ではあるがしっかりと鍛えられた肉体であることがスーツの上からでも分かった
美しい顔立ちではあるがどこか子供っぽく
こんな店が珍しいのか忙しなく瞬きをしつつも、不躾な視線を送ってくるのがユノはいささか不快だった
「こちらへどうぞ」
それ以上おべんちゃらを言う気にもならず、シウォンの指定席へと案内し
それっきり、シウォンが帰るまでユノはそのテーブルに向かうことはなかった
元々ここはホステスと酒を楽しむ店で、ユノがテーブルに着くことはない
ユノはウェイター兼バーテンダーであり、ケースバイケースでセキュリティスタッフでもある
カウンターに戻ってグラスを磨いていると
レーザーポインターを当てられているような感覚に顔を上げた
その先にあったのはシム・チャンミンの顔
遠目からでも分かるほどにユノを凝視している
しかしユノは無視した
そんなことは日常茶飯事だったからだ
容姿の美しさゆえに集まってくる輩はこれまでにも山ほどいた
まるで、小バエだな
では、その小バエが群がる自分は腐り果てた生ゴミか
そんな風に思い
ユノはバーカウンターの中で、薄く笑った