映画『明日を綴る写真館』 | 牧内直哉の「フリートークは人生の切り売り」Part2

映画『明日を綴る写真館』

『明日を綴る写真館』

(上映中~:TOHOシネマズファボーレ富山、TOHOシネマズ高岡)

公式サイト:https://ashita-shashinkan-movie.asmik-ace.co.jp/

 

コンテスト3年連続グランプリ、気鋭のプロカメラマン五十嵐太一が、

さびれた写真館を営む鮫島武治の撮影した一枚の写真に心震わされ、

華々しいキャリアを捨て、鮫島のもとに弟子入り志願するという物語。

あるた梨沙さんの原作漫画(例によって未読です)を、

20歳のソウルの秋山純監督がの実写映画化しました。

 

鮫島役の平泉成さんが80歳(にしては若い!)で映画初主演!

というのがセールスポイントのはずだったんですが、

実際に鑑賞してみると、主人公は五十嵐太一だった印象です。

『20歳の~』にも出演していた佐野晶哉さんが演じてまして、

正直な印象、まだまだ演技は発展途上でした。

 

ただ、東京では態度の悪かった太一が岡崎では真摯な姿勢でして、

なんや、人当たりが不器用なだけでホンマは好青年やん!って感じでした。

でもね、弟子入りは良いけど、決まっていた仕事はキャンセルせずに、

全てちゃんと終えてから岡崎に行くのがプロってもんじゃないの?

いや、逆にプロだから気持ちを抑えきれなかったのかもしれません。

彼のマネージャーさんはホントたいへんそうでした。

 

太一の弟子入り以降は、知らずに観ていたら驚くほどの豪華キャストで、

実際、私は知らずに鑑賞していたので驚いたのですが、

それは平泉さんの為に集まってくれた俳優さん・女優さんなんでしょう。

平泉さんはもちろん、短いシーンでもベテラン陣の演技に厚みがあるので、

佐野さんだけでなく、若い人の演技が全体的に軽く感じられてしまいます。

でも、こればっかりは仕方ないです。

 

(以下、“適度”にネタバレしています。ご了承ください)

 

さて、太一は鮫島から、直接言葉で学んだこと、

鮫島の写真撮影に取り組む姿勢を見て学んだこと、いろいろありました。

印象的だったのは、写真は被写体を写しているだけではなく、

カメラマン自身も写しだされていくのだということでした。

絵画や音楽、演劇、落語などもそうですが、写真も同じだったんですね。

太一がポートレートを撮るのが苦手だった理由はそこにあったようです。

彼自身、多感な時期に辛い思いをしていたのでした。

 

太一は鮫島の写真を「音が聞こえてくる」と評しました。

実際に彼の耳には聞こえるのでしょう。

つまりそれは、音に限らず目に映るもの以上のものを、

鮫島のカメラは捉えていたということだと思います。

地方都市の町の写真屋さんですが、

ここだ!というシャッターチャンスを逃さないカメラマンでした。

見方によっては不謹慎な撮り方もしますが、大事なことでもあるのですね。

 

鮫島も良くも悪くも写真バカですから、

若い頃から、妻や息子、家庭のことはかえりみず写真に没頭してきました。

息子は父と同じようには絶対にならないと、家を出ています。

といいながら、ラーメンの好みは同じだし、

自分も結婚を控えて、父の若い頃と同じことをしようとしている。

ここ、本編で「お父さんと同じじゃないか」と誰も指摘しませんが、

観客は微笑ましくスクリーンにツッコミ入れたくなるはずです。

 

この鮫島の息子、名前が「直哉」でして、

市毛良枝さん演じる鮫島の妻がやたらと「直哉、直哉」って呼ぶんです。

お母さんが息子を呼んでるだけですが、何だか自分が呼ばれているような。

市毛さん、かつては「お嫁さんにしたい女優No.1」と言われていました。

それが活かされるシーンが終盤にあります。

そうやって鮫島家の顛末もいろいろ描かれているので、

確かに平泉成さん主演というのはあながち間違いではないのかもしれません。

 

といっても、やはり主人公は太一だったように思います。

彼はカメラマンとして最終的にどういった選択をするのか。

それも良いですよね。そうじゃなくてもアリですよね。・・・と思いました。

エンドロールが素敵な写真の数々で綴られていました。

にしても、岡崎市って私の中ではもっと都会の印象でしたが、

この写真館があるエリアは人口が減少していて・・・とありまして、

岡崎市でもそうなんだから、そりゃ富山県はもっとたいへんなワケですよ。