映画『風の奏の君へ』 | 牧内直哉の「フリートークは人生の切り売り」Part2

映画『風の奏の君へ』

『風の奏の君へ』

(上映中~:イオンシネマとなみ)

公式サイト:https://kazenokanade-movie.jp/

 

岡山県美作市で無気力な日々を過ごす浪人生の真中渓哉と、

家業の茶葉屋「まなか屋」を継いで町を盛り上げに尽力している兄・淳也。

ある日、コンサートツアーで美作に来たピアニストの青江里香(さとか)は、

演奏中に倒れ、療養と作曲を兼ねてしばらく滞在することになりました。

かつて大学時代に東京で里香と交際していた淳也は、

彼女に対して冷たい態度ですが、渓哉は里香に恋心を募らせていきます。

実は里香には美作に来たかった理由と秘密がありまして・・・。

 

里香役は女優でもあり、ピアニストでもある松下奈緒さん。

過去にピアニストの役はやったことあるのだろうか・・・と思い、

簡単に調べたら、女優デビューのドラマでピアニスト役でしたが、

その後はないみたい。まぁ、ちょっとやりにくい設定かもしれません。

松下さんとじゃ比較にもなりませんが、私も地元の自主製作映画で、

アナウンサーの役や、大阪から流れついた落語家の役をやった時は、

なんか「まんまやん!」みたいな気分になりましたからね。

さすがに本作での松下さんは役として演じておられたと思います。

ご自身で作曲した曲をご自身で演奏なさっていて素敵でした。

 

(以下、“適度”にネタバレしています。ご了承ください)

 

里香の秘密が重い病で余命が短いということはすぐに分かります。

ただ、観客はすぐに分かるけど、真中兄弟にはなかなか分からない。

里香も隠しておくつもりだったけど、渓哉には話してしまいました。

その時「淳也には知られたくないので秘密にしておいて」と頼みますが、

いやいやいや、渓哉に話した以上、それは絶対に無理ですよね。

と思っていたら、淳也は友人の医師から病気のことを聞かされて、

ん?それは医師の守秘義務違反ではないのか?

 

淳也は祖母や弟のために大学を辞めて店を継いだのではなく、

東京や里香から逃げ出して美作に戻ってきたと終盤で告白しました。

言葉足らずで冷たい部分もあるけれど、偉そうにしているわけではないし、

町のことも店のことも弟のことも考えていて、実は優しい好青年ですよ。

さすがに終盤のコンサートには早よ行けよ!とは思いましたが、

それ以外の部分では、彼の気持ちは解るような気がしました。

 

美作の茶畑が美しいです。製茶場で渓哉が里香にお茶を淹れます。

急須に蓋がなかったです。蓋のあるなしは何か違いがあるのでしょうか。

とにかく丁寧に淹れていて、これは美味しいんだろうなと思いました。

ここはご当地映画として美作のお茶を見せるシーンでもありますが、

それ以外に、今は無気力な日々を過ごしている渓哉も、

これまでちゃんとお茶には向き合っていたんだということも分かります。

とはいえ、茶香服(ちゃかぶき:いわゆる「きき茶」)の大会、

淳也と渓哉の二人以外にも決勝行く人がいても良かったのでは。

 

他にも、詳しくは書けませんが、それ時間的に間に合います?とか、

いろいろ言い出すとキリがない遂行不足を感じるシーンもあるのですが、

いい意味で分かりやすく王道の脚本でご当地映画としての見どころもあり、

全体的にはストレスなく良い話だったなと思える映画でした。

大谷健太郎監督は美作市で育った方なのだそうで、

その辺りの「美作愛」はしっかり伝わってきました。

茶畑で「霧が晴れてきた」と言うシーンがありましたけど、

その景色も美しく、やはり岡山は晴れの日が多くて良いですね。