映画『マイスモールランド』 | 牧内直哉の「フリートークは人生の切り売り」Part2

映画『マイスモールランド』

『マイスモールランド』

(上映中~6/16:J-MAXシアターとやま)

公式サイト:https://mysmallland.jp/

 

クルド人の家族とともに故郷を逃れ、幼い頃から日本で育った17歳のサーリャ。

現在は埼玉県の高校に通い、同級生たちと変わらない生活を送っています。

大学進学資金を貯めるため東京のコンビニでアルバイトを始めた彼女は、

そこで東京の高校に通う聡太と出会い、親交を深めていきました。

そんなある日、難民申請が不認定となり、

一家が在留資格を失ったことでサーリャの日常は一変する。という物語です。

 

エンドロールの「この物語は取材をもとに想像されたものです」は、

つまりは、シミュレーションとしてもリアルだということでしょう。

「でしょう・・・」、そう、私は何も知らないんだということを知りました。

聡太はサーリャがクルド人であるということを聞かされますが、

クルドが国ではなく民族であるということを知らず、ピンときません。

私も聡太ほどではないけど、ほぼ彼と同じだということです。

多分、日本人の大半が聡太や私と同じ程度の知識なのではないでしょうか。

 

サーリャの父が聡太に簡単にではありますが説明をしてくれます。

それだけでも、たいへんな想いで日本に逃げてきたことが分かります。

映画を観て帰宅後、クルドのこと、クルド人難民のこと、日本の政策、

ごくごく簡単ではありますが、ネットで検索して調べました。

映画はそういう機会を与えてくれる社会の、人生の教科書でもあります。

富山県内の映画館での上映は明日(6/16)までですが、

配信とかでも良いので多くの方にご覧いただきたいと思いました。

 

題材としては重いテーマなのですが、

作品全体の雰囲気はそれだけではなく、鑑賞する心地良さもありました。

川和田恵真監督は是枝裕和監督率いる映像制作者集団「分福」の所属で、

あ~確かに是枝テイストを受け継いでいるなという印象は受けます。

脚本も川和田監督が入念な取材をもとに書き上げています。

ご自身は日本とイギリスのハーフだそうで、

それが作品に与えている影響は少なからずあると思いました。

 

また、高校生が主人公であることの新鮮さや瑞々しさもありました。

とりわけ、映画初出演の主演、サーリャ役の嵐莉菜さんが素敵です。

彼女自身も5か国のマルチルーツがあるということです。

でもって、お人形さんみたいに可愛いです。

彼女が働くコンビニに買い物に来たおばあさんも同じことを言ってました。

でも、サーリャはおばあさんの何げない素朴な話しかけに困惑していました。

そのシーンを観ながら、なんとなく反省している私がいました。

 

私が感情移入することになる聡太役の奥平大兼さんも、

こういう子がいてくれたらいいなと思える好青年を好演しています。

そして、エンドロールを観て「ん?」となって、あとで分かりましたが、

サーリャのお父さんも妹も弟も、みんな本当の家族で演じているんですね。

オーディションの結果でそうなったそうですが、皆さんお上手すぎる!

 

(以下、“適度”にネタバレしています。ご了承ください)

サーリャの家族、チョーラク家は父マズルム、長女サーリャ、

中学2年生の次女アーリン、小学2年生の長男ロビンの4人家族。

母親は亡くなっています。アーリンとロビンは日本語しかできません。

サーリャはクルド人の言葉もできるし、今は日本語もペラペラに堪能です。

地域の日本語ができないクルド人の橋渡し役にもなっています。

 

ただ、日本での暮らしが長く、同級生たちと同じように生きたいという、

父とは違う、サーリャなりのアイデンティティが芽生えていました。

それはアーリンにもあるし、ロビンにも幼いながらの苦悩があります。

ラーメンの食べ方ひとつにもナショナリズムの違いがあり、

クルド人としては品がないとされる「音を立ててすする」という行為も、

日本人感覚が強くなっているアーリンにとっては「おいしい食べ方」です。

 

埼玉県には2,000人ほどのクルド人コミュニティがあるそうですが、

クルド人が日本で難民認定された例はこれまでないに等しいとのことです。

チョーラク家も長年申請してきた難民申請が不認可との結論が出されました。

ちなみに、現在、日本では、

戦禍を逃れてきたウクライナ人を「避難民」として受け入れていますが、

「難民」と「避難民」の違いとか、もう調べ出すとキリがないです。

それだって、受け入れてるだけで、その先は結局同じなのかもしれません。

 

入管(入国管理局)の職員がクールにクールに難民申請不認可を伝えます。

マズルムは祖国で負わされた傷を見せて訴えますが、職員はクールです。

「私に言われても結論は変わりません」は確かにそうなんでしょうけど、

その結論に至った理由を説明する“業務”はあっても良いと思いました。

とにかく、この職員は粛々と努めてクールに今後の処置を説明します。

海と大陸』『帰ってきたヒトラー』『ファヒム パリが見た奇跡

これまでも映画で難民について考える機会はありましたが、

初めて日本での難民問題を考えさせられると胸が痛む思いがします。

 

かくしてチョーラク家は今までもらえていた「在留資格」を失い、

「仮放免」となりました。これがまたシビアな措置でして・・・。

このまま日本にいてもいいけど「働いてはいけません」

「入管の許可なく県外に出てはいけません」「国民健康保険は使えません」

要は言葉を雑にして言うと、

「もう日本ではまともには暮らせないから、早めに前にいた国に帰れ」

ということです。日本での居場所を奪う措置なんですね。

 

帰ればその国で逮捕され酷い仕打ちが待っていることは明らかです。

でも、日本にいるにはお金が要る。禁止されていても働くしかない。

それはつまり「不法就労」なわけで、

ほどなくマズルムは警察に捕まり入管施設に収容されることになりました。

 

そうなると、長女サーリャに今まで以上に負担がかかります。

東京でのコンビニのバイト、当然、それを続けることはできません。

もう家賃も払えない。聡太君にも簡単に会えない。

それでいて、いまだに他のクルド人との橋渡し役は続いてる。

その辺の苦悩を次女は理解してくれずギクシャクする。

 

それよりも、決まりかけていた大学の推薦が取り消されてしまいました。

日本語ベラペラのバイリンガル、成績優秀でも「仮放免」なので・・・。

このまま日本で暮らしたい、将来は小学校の先生になりたい。

幼い頃から長年日本で暮らして芽生えた将来の夢を持つことすら、

今の日本の法律では「罪」になってしまうのか。これでいいのか日本!

 

でも、私も憤りは感じながらも、では、我々には何ができるか、

また、日本はどうあるべきかを論じることができるまでには至りません。

恥ずかしながら今まで考えてこなかったし、簡単に答えは見つかりません。

聡太もサーリャのために何かできないかと、あることをします。

それは本来、彼がするようなことではないのかもしれませんが、

なんというか、聡太の何かしたいという思いに感情移入しました。

本作で何度か出てくる「しょうがない」という言葉に、

最初は「しょうがなくない」と言った聡太も最後には言えませんでした。

 

父マズルムの「祖国に帰る」という最後の決断も、

そのことで、子供たちにビザが下りた過去の例があるから」という、

もうホンマに日本の政策は本当にこのままで良いの?

と、じゃあどうすれば良いか言えないくせに思ってしまいます。

ちなみに、もうすぐ参議院議員選挙ですが、

各候補者が難民政策についてどう考えているか、公約に挙げているか、

この機会にチェックしてみようかと思いました。