映画『余命10年』 | 牧内直哉の「フリートークは人生の切り売り」Part2

映画『余命10年』

『余命10年』

(上映中~:J-MAXシアターとやま、TOHOシネマズファボーレ富山、TOHOシネマズ高岡)

公式サイト:https://wwws.warnerbros.co.jp/yomei10-movie/

 

数万人に1人という不治の病「肺動脈性肺高血圧症」に冒され、

余命10年を宣告された20歳の高林茉莉(まつり)は、

生きることに執着しないよう、恋だけはしないことを心に決めていました。

が、地元の同窓会で真部和人と出会い恋に落ち・・・という展開。

SNSを中心に反響を呼んだ小坂流加さんの同名恋愛小説が原作です。

小坂さんは茉莉と同じ病気ですでに亡くなっておられます。

 

観ていてすぐに感じたのは、ものすごく豪華な配役だということ。

茉莉役は小松菜奈さん、和人役は坂口健太郎さん。

これは何度も観た予告編でハッキリ分かっていましたが、

二人の同級生役が山田裕貴さんで、茉莉の姉役が黒木華さん、

あんまり出てこない茉莉の大学時代の同級生役が三浦透子さんでした。

で、もうちょっと観てたら、あら~、リリー・フランキーさんまで!

その他、え?これだけしか出ないのにこの俳優さん!?って感じでした。

 

序章で病気の重さが分かります。

私、勉強不足だったので、“余命10年”ってどういうこと?と思ったのですが、

「10年生存率が極めて低い」ということでして、

事によっては明日にも亡くなってしまうかもしれない病気だったんですね。

茉莉は病気のことを勉強して、ノートに細かくまとめていました。

ここはもっと集中してノートに目をやっておけば良かったです。

 

(以下、“適度”にネタバレしてます。ご了承ください)

20歳で発症して、通っていた大学も辞めざるをえなかった茉莉は、

とりあえずは退院しましたが、家族以外には病気の真実を告げられません。

かつては小説家を目指して書いていた茉莉の文章を好きだと言う、

大学時代の同級生で今は出版社に勤めている藤崎沙苗から、

「うちの社でWebコラムを書く人手が足りなくて困ってる」と誘われて、

そのことには感謝しつつも、すぐに返事は出来ませんでした。

沙苗役の奈緒さん、素敵な親友で、こういう役が似合います。

 

茉莉が自宅に帰ると、今度は中学時代の同窓会の案内が来ていました。

姉が「これがきっかけで恋人ができるかも・・・」と話しますが、

茉莉は「恋愛なんてしないよ」と、そっけなく返しました。

自分の余命は長くて10年。なので、仕事も恋愛もしない。

相手に悪いと思っているのか、自分が悲しむのが嫌なのか、

そこはハッキリしませんが、でも、なんとなく気持ちは分かります。

なので、家族もそれ以上は何も言えないのです。

茉莉本人もですが、家族もつらいですよね。

 

でも、同窓会には行きました。これが起承転結の“承”です。

ここで和人と出会って、いろいろあって、恋心が芽生えます。

「いろいろ」は本当にいろいろです。

和人は人生が思い通りにいかず死にたいと思っていたのでした。

生きたいのに生きられない茉莉とは対極にいるようですが、

理由は逆でも「自暴自棄」で共通しているようないないような・・・。

桜堤で「私も頑張る(何を“頑張る”かは言わなかったけど)から、

もう死にたいなんて思わないで」と、茉莉は和人に言いました。

 

“頑張る”の一つとして、茉莉は沙苗の働く出版社でコラムを書き始め、

そして、和人とも恋仲にはなるのですが、一線は越えられません。

やはり、どうしても「余命10年」がストップをかけてしまいます。

身体にも手術の傷が残っているし、真実も告げられないまま。

いや、告げようとは思ってないんですね。

といっても、必然的に和人は茉莉の病気を知ることになります。

自分はどうすればいいのか?その答えを見つけさせてくれたのは、

今の自分が働く焼き鳥屋の店長(リリーさんです)の言葉、

「愛する人に出会えるなんて奇跡のようなものだ」でした。

 

にしても、この茉莉の“かたくなさ”は誰かに似ている。

そうだ、先日最終回を迎えたドラマファイトソングの主人公、花枝だ!

映画は共同ですが、どちらも同じ岡田惠和さんの脚本でした。

基本的に嫌な人が出てこない、主人公が困難な境遇にあるなど、

本作は原作がありますが、どちらも岡田さんのテイストを強く感じます。

ちなみに、『ファイトソング』、50代のオッサン(私)、キュンしました。

 

本作はそのキュンを描きながらもブッ飛ばしてます。

茉莉は同じ病気で入院していた人の“形見”でもらったビデオカメラで、

和人と過ごした数年間を映像に収めています。

それがグルグル回っているだけではなく、

終盤、ものすごく大事な想いを表現するシーンで活きてきます。

そう、あの桜堤の映像は大事だよね。と思ったりして。

 

観る人によっては「スローすぎる展開」と感じるかもしれませんが、

私はいろんな流れを丁寧に丁寧に撮っているなと感じました。

藤井道人監督、この人は何というか、いろいろ上手いですな。

あ~、そうやって小説につながるのかというところも。

上手いといえば、RADWIMPSのスコアと主題歌もそうです。

 

最後はなるようになります。

最初から「余命10年」なのですから、

余命を宣告された茉莉も、そして彼女を大事に思う周りの人たちも、

そこにどう向かっていくのか・・・ということです。

自分の人生を大事な人たちとの関わりの中で生ききれるか。

とまぁ、分かってるようで、私は実際にはダラダラ過ごしてますけどね(^_^;)

 

肺動脈性肺高血圧症は発症する人の少ない病気ですが、

人は遅かれ早かれ、余命宣告があってもなくても死亡率100%です。

なので、本作はとても良い話だなと思ったし、惹き込まれたし、

茉莉が終盤でイメージした幸せの未来予想図に切なさを感じましたが、

実は私はそんなに泣いたりはしてないんですよ。

茉莉とお母さん、茉莉とお姉さんとのところはグッときたんですけどね。

 

私が鑑賞した日は、劇場の客席が後ろ半分ほぼ満席でした。

本編上映前の予告編で菅田将暉さんの主演映画が流れまして、

帰りのロビーで「なんか、坂口さんと菅田さんがごっちゃになった」

って苦笑い状態のお客さんがいらっしゃいました。気持ち分かります。