寅さんの“フラれ方” | 牧内直哉の「フリートークは人生の切り売り」Part2

寅さんの“フラれ方”

TOHOシネマズでも上映中の映画『男はつらいよ』シリーズ、

BSテレ東での放送も今夜(6/6)、とうとう第10作まで来ました。

映画としてのシリーズは完全に充実期に突入していたといえます。

車寅次郎が旅をして、柴又に帰ってきて、恋をして、失恋して、旅に出る。

簡単に言ってしまえば、毎回そういう流れですが、

私がそこそこ大人になってから気づいたのは、

「寅さんは何度も失恋しているが、振られているわけではない」

ということでした。

 

第8作男はつらいよ 寅次郎恋歌(1971年)

マドンナの貴子さんをお金の面で助けることができない寅さんは、

他にできることがあれば・・・と、半ば“玉砕”しに行ったようにも思えます。

しかし、貴子さんは寅さんのその気持ちが嬉しく、そして・・・。

寅さんの旅暮らしが羨ましい、素敵であると何気なく口にしました。

その貴子さんの言葉に寅さんは確かな失恋してしまいました。

彼女が本当の自分の暮らしを理解できないのは仕方のないことだ。

と、ある意味、潔く去っていくのでした。

 

第9作男はつらいよ 柴又慕情(1972年)

マドンナの歌子さんは別の男性との結婚の決意を寅さんに報告します。

王道的な失恋です。吉永小百合さんですから、それでこそ!という感じです。

にしても、マドンナの前でここまであからさまにガックリしている寅さんって、

他の作品ではそんなにないんじゃないでしょうか。

でも、歌子さんはそこには気付いてなくて、

「私が結婚できるのは寅さんのおかげ」「彼も寅さんのことが好きになる」

などと、もう“ダメ押し”みたいなことを言ってます。

 

第8作、第9作で寅さんは自分から「振られた」と言いました。

しかし、振られるもなにも、寅さんはハッキリ「好きだ」と告白していません。

第6作純情篇の夕子さんは、ちゃんと気づいて大人の対応をしましたが、

それ以外のマドンナには「振られる」とこまで行ってないんです。

マドンナだって、ちゃんと言われないと分からないですよね。

 

そして、今夜放送された第10作男はつらいよ 寅次郎夢枕(1972年)

寅さんに本気で結婚願望があったのなら、シリーズは本作で終了してます。

マドンナの千代さんの方が「寅ちゃんとなら一緒に暮したい」と言ったんです。

千代さんは寅さんと幼馴染み。ある程度、彼を理解した上での告白です。

だというのに、寅さんはビビって引いてしまいました。

その態度に千代さんが失恋して「冗談よ」と“優しさ”を見せました。

千代さん、可愛くて優しくて、こんな素敵な人、そうはいませんよ!

八千草薫さん、お亡くなりになるまで、ずっと可愛いままでしたね。

 

さすがに、本作で寅さんは「振られた」とは言いませんでした。

当たり前です。振ったのは寅さんで、お千代さんが振られたのです。

でも、寅さんは寅さんで気持ちとしては「失恋」してるんです。

そして、このパターンが、後の作品でも何度か出てきます。

まぁ、寅さんが結婚しちゃったら、松竹が困るから仕方ないです。

 

でも、こうやって寅さんは何度も何度も恋はするけど、

実は結婚したくないんだ。ということが分かってしまった以上、

この後、彼がどれだけ失恋しても、その点では「つらいよ」じゃないですよね。

責めてるわけじゃないですよ。私、寅さんと自分と重ねてますから(^_^;)

でも、さすがに私でも、寅さんと同じ人生を歩んだら3回は結婚してますよ。

 

しかし、このパターンが確立されたからこそ、

次の第11作で寅さんとリリーが出会い、二人の特別な世界が構築されます。

ちなみに、私が一番好きなのは、リリーが再び登場する第15作です。

まだまだ土曜日の楽しみは続くのでありました(^^♪