志村けんさんとは一度だけ共演したことがある。

コントとカメラ位置とのことについて教えてもらったことが忘れられない。

「カメラがコントをするか?コントを演じてんのはおまえなんだ、カメラマンに言われた通り動くんじゃなく、カメラマンを動かせ。」

あくまで要約だけど、そのようなことを言ってもらった。愛の印だと思った。



テレビに出始め、あの志村けんとの共演に胸躍った。そこにたどり着いて当然という傲った思いもあった。しかし、志村さんに認めてもらいたいと気負っていた割にはコント勘が悪かった。ドラマじゃないんだから、段取りを何度もやるわけじゃないし、台本+アドリブの余白+カメラマンとの位置関係をどうやって把握し、周りと見えない意志の交換をするか。そこが問題だった。
私が間抜けだったのは志村さんに対してはなんかやってやろうと、段取りの時から向こうっ気たっぷりにやっていた割には、「あ、それ面白いっすね、そしたらカメラをこっちにするからそこの位置でやってください。」とカメラマンに言われたら「あ、はい!」と返答してしまったことである。そしたらその位置にカメラを移動してもう一度同じことを段取り上やらなくちゃいけない。それを志村さんは嫌った。

「何度も同じことやらすな、つまんなくなるだろ!」

と、カメラマンを一喝したのである。愛の印…

打ち上げの席で焼酎の水割りを飲みながら、「あの時はすいませんでした、ドラマとコントは違うんですね。」と私が言うと、志村さんはテレビコントの流儀についての言葉をさりげなく教えてくれた。

酒豪だとは聞いていたが、本当においしそうに酒を飲んでいる姿がカッコ良かった。
印象的な出来事がある。
お付きの方だったか、志村さんのグラスの中身が足りなくなり、焼酎を継ぎ足し、水を注ぎ、マドラーで丁寧にかき混ぜた時だった。

「あ、いいよ、かき混ぜなくて!」

と、志村さん。私がキョトンとしていると、「混ぜると味の変化が楽しめないんだよ。」と。氷が溶けていくと味が変化するというのである。私はその酒スケベぶりに驚き、感動した。

アインの方の…
愛印と愛飲。



合掌。

お世話になりました。