もう20年近く前の話。

ライブ会場や、コンテスト会場などで、誰とも話す事なく、むすっとしていた僕。ツッパってるイメージでいたかったんだけど、単に、人見知りで、臆病なだけでした。

そんな僕にすーっと話しかけてきた人。

僕は、訝しんで、身を硬くして偽悪的な対応をしていた。


でも、その人は、こちらの応対にも態度を変えず、優しく話してくれていました。



その後、また幾度となく一緒になった。僕はいつしかその人に心を開くようになり、でも、根性の悪い僕は相変わらず「ま、他の人より話しやすいからいいか。」ぐらいの感じで接していました。



その方の名は前田健さん。



誰に対してもそういう人でした。




食えなかった頃、とある営業の場に呼んでもらったことがあった。
僕は、当時から、一般受けしない、クセのあるネタをやっていました。で、そりゃもう豪快に滑り倒していた。
その場は、ちょっと強面系の人達がいるような宴会だったんですが、心が折れまくった僕は、結局思うようにならず、持ち時間もこなすことなく、舞台を降りました。


その直後、勢いよく、全力でステージに飛び出したのが、松浦亜弥姿の前田健。








マエケンも滑っていました。あんなに面白いあややネタでさえ。
そういう場だったんです。
でも、マエケンは、僕とは違い、やりきっていました。それはそれは遮二無二に。



僕は、初めて彼のことを心から尊敬しました。




でも、そのことは言えなかった。





楽屋に戻ってきた彼を待ち受けて、僕は彼に…




「ひひひひ、滑ったね、マエケンさん。」



と言いました。僕に比べ、ずいぶんと潔のよかった彼を、自分同じところまで引きずり降ろそうとしたんでしょう。すると彼は…




「そうよ!もう、尻尾巻いて帰ってやるわよ!」



だって。



笑っちゃいました。



どこまでも優しい奴でした。








面白い人だったな、前田健。