ASEAN4カ国訪問、一カ国目はインドネシアです。日本の約5倍の面積に約2億7000万人が住む国です。1942年から1945年までは日本軍による占領があり、8月17日が独立記念日になっています。歴史的背景はあるものの親日的な国であり、日本語学習者数は約71万人で、中国についで世界第2位です。在留インドネシア人は約15万人で、半数は技能実習生、約3.4万人は特定技能で入国し、帰国後は起業するなど、農業、介護分野での活躍も見られます。漫画や日本食の人気の高さでも有名です。コスプレイベントも大盛況とうかがいました。

2024年10月20日には、インドネシアの大統領が10年ぶりに交代することになっており、プラボウォ次期大統領の政策に注目が集まっています。ジョコ現大統領の「黄金のインドネシア2045(2045年までに世界の5大経済入りを目指す)」方針は継続されると思われます。現在経済成長率5%のところを次期大統領は7%目標を掲げるとのことで、インドネシアがトップ5に入ってくる頃、日本は何位になっているのか、も想像すると、日本のイノベーションのスピードを上げる必然性も感じます。(研究所の中には2050年の経済ランキングは、中国、アメリカ、インド、インドネシア、ドイツ、日本になるのではないか、との見通しを出しているところもあります。)

一方でインドネシアには依然として、国内脆弱層の飢餓の問題があり貧富の格差は大きく、汚職の撲滅も課題となっています。「ニワトリを盗まれたので警察を呼んだらヤギを取られた」という逸話もあるのだそうです。また、若年層の失業も解決すべき課題です。

経済成長の実現のために「下流化政策」産業の高付加価値化政策を進めていますが、インドネシア国内で稼働中のニッケル精錬プロジェクトの7割以上が中国資本であることなど、動向を注視すべきものもあります。

日本との関係では、2023年の投資額で、シンガポール、中国、香港に次いで日本は第4位でありますが、2013年まで1位であったことを鑑みると、引き続きの関係強化が重要です。

来月には、ジャカルタで第2回AZEC(アジア・ゼロエミッション共同体構想)閣僚会議を実施予定ですし、日本の円借款で作られた地下鉄は市民の足として親しまれています。延伸工事も続いています。そして何よりも、自動車市場の9割以上は日本車です。

さらに、ジャカルタは交通渋滞や地盤沈下で都市機能に限界がきていることから大統領宮殿や中央省庁移転を行うという巨大プロジェクトが動いていますが、新首都ヌサンタラでのスマートシティでは技術協力でNECが、大統領宮殿のエレベーター納入では三菱電機が入る予定です。

初日最初の訪問先はBRIN(国家研究所イノベーション庁)です。BRINはリサーチ研究機関であり、中央省庁、地方政府に対して科学的なインプットを行う機能を持っている組織でもあります。ハンドコ国家研究イノベーション長官と面会しました。



科学、技術、研究、イノベーションを日本をパートナーとして進めていきたい、とのお言葉もありました。ハンドコ長官は、熊本大学と広島大学で学位を取得された方で、日本語も流暢で、スタッフの中にも日本で10年以上研究されていた方が複数おられました。カーボンニュートラルとエネルギー政策について、またイノベーションやスタートアップ人材の育成について、議論しました。

日系企業関係者との意見交換会ではJJC(ジャカルタ・ジャパン・クラブ)の役員の皆様からインプットをいただきました。296の日系企業がインドネシアで674の脱炭素化プロジェクトを実施しており最大で年間4600万トンのCo2の削減に貢献しています。2060年までに3億5000万トンの削減を達成する推計を公表しています。今後の成長を考えると電力不足になると想定されますが、家庭でのアンペアは抑えられているそうで、ドライヤーと電子レンジを同時に使えないといった状態とのこと。

スタートアップ分野ではスマホを活用したサービスの提供など、SNSを使っている時間が1日あたり平均3.5時間という背景とも相まって進んでいるようです。ただ、15歳から24歳の若年労働者の失業率は16.4%で全体平均の4.8%を上回っており、ASEANの中でも高い数値であることも事実。日系企業は720万人の雇用創出に貢献しています。

つづいて、国会へ。ゴーベル・インドネシア国会副議長との面会。





ゴーベル副議長はは中央大学商学部卒、パナソニック・ゴーベル・インドネシア会長を務められるなど、日本との関係が大変深い方で、日本語もネイティブ。MRT(ジャカルタ都市高速鉄道)南北線が時間通りの運行ができているのも、日本がしっかりと技術移転をしてくれたおかげ、という言葉もありました。

南北線のみならず、東西線や周辺鉄道インフラの開発、カラワン工業地帯からの輸出を促すパティバン港の整備、車の試験場プロジェクト、泥炭地プロジェクト等日本からの投資について議論しました。スタートアップやデジタル技術の活用については、地方から始めて行くというコンセプトも共有できたと思います。

アイルランガ経済担当調整大臣とは、エネルギー分野にとどまらず、デジタル・エコノミー・フレームワーク・アグリーメントについても前デジタル大臣として意見交換しました



インドネシア、タイ、シンガポール、マレーシア、ベトナムの5カ国で共通のQRコードを活用するなどプロジェクトが進んでいます。インドネシアは既にユニコーン8社、デカコーン2社になっており、デジタルエコシステムは、日本との連携も進めていきたい分野です。

最後の訪問先はERIA(東アジア・アセアン経済研究センター)のE-DISC(デジタルイノベーション・サステナブル・エコノミーセンター)。ERIAは東アジア版OECDと呼ばれているもので、日本が主導する政策研究・提言を行う国際機関です。スタートアップのピッチによる選考会や日本のスタートアップの促進など実施していますが、他国との政策競争も激しくなってきています。

ライドシェア大手GoTo社との意見交換にはキャサリン・スーチャヒオ・オンデマンドサービス部門最高経営責任者とモニカ・オウーダンGoTo最高人事責任者兼インパクトファンデーション代表が参加をして下さいました。ライドシェア型タクシーサービスの提供を超えて、支払いやデリバリーまで幅広いサービスを提供するプラットフォームに成長しています。たとえば、朝こどもを学校に送っていく、オフィスにいく、友達の誕生日プレゼントを注文する、昼食を注文する、動画のサブスクの支払いをする、夕食の食材を買う、週末の洋服を買う、など1日に何度も接する、日々の暮らしに欠かせないものになっています。

働いている人たちの様子を紹介するエピソードが印象的で、モールにあるレストランの食事のピックアップを依頼されたドライバーは当初、モールに足を入れたことのない人々だったといいます。最初は手を引いてエスカレーターの乗り方から教えていたそうですが、今はグループが構成され、グループの中で教える仕組みが出来上がっているそうです。また、小さな商店の中でも後発者に情報を提供する仕組みが出来上がり、エコシステムが回っていることを説明してくれました。また、GDPの2%の貢献をしていると発表しているGoToでは、ドライバーのことを「マイクロ起業家」と呼んでいるのも特徴で、オープンマインドであることを大事にしているとも話してくれました。規制改革とルール・メイキングのプロセスについては、日本とインドネシアで共通する部分と異なる部分はあるものの、課題解決に向けた姿勢には学ぶものが多いと実感したインドネシアでの1日です。

明日はシンガポールへ向かいます。