イギリスの中学生・ミアはシングルマザーの母親と弟のチャーリーと公営団地で暮らしている。母親が生活保護の金でドラッグを買うのでミアとチャーリーはいつも飢えているし、制服を買い替えることもできない。ある日ミアは図書館で金子文子の自伝に出会う。

 ミアは友達にも周囲の大人たちにもSOSを言わない。本の中のフミコ以外には心を開かない。

 ドラッグに溺れる母親を見限ったミアはチャーリーを連れて家出する。電車を乗り継ぎながらミアは、かつて自殺した同級生の父親のことを、「命と引き換えにしても終わらせたいことだったのだろうか」と思い出す。しかし、ミアは本当にそんなふうに思うだろうか?ミアはきっと命を大切だと思っていない。明日を夢見てはいない。誰のことも信用しないミアが生きているのは、チャーリーを守るために気を張っているからだ。

 それでもこの物語は、ブレイディみかこ氏が暮らすイギリスの社会を描いたものであるし、100年前の金子文子はもとより、現代の日本にもミアのような少女はいる。

 ミアは握りしめていた両手のトカレフを本に持ち変え、別の世界へと歩き出す。


『両手にトカレフ』

ブレイディみかこ

2022年 ポプラ社