香港からマカオ、マレー半島を経てインドへ。ネパール、パキスタン、シルクロードを西へ進み、ヨーロッパに渡る。インドからロンドンへ乗り合いバスで行くと豪語して旅立った沢木青年の旅物語に私が同行したのは実に四度目だった。

 初めて『深夜特急』を読んだのは高校生のときだった。読めなかった。マカオで大小という博打に嵌まる青年についていけなくなったのだ。

 二度目に読んだのは二十代の前半で、こんなにおもしろいものをどうして読めなかったのだろうかと過去の自分の幼さを恥じ、夢中になった。泣きながら読み終わり、そのまますぐに冒頭に戻ってもう一度読んだ。

 あれから十年以上経った。四度目もおもしろかった。二度目、三度目と同じ箇所で泣き、もうすっかりわかっているエピソードに胸を熱くしたかと思うと、まったく覚えていないような逸話もあった。

 刺激的でどんどん読み進めていた旅は後半にさしかかり、終わりが近づいてきてしまう。この旅を終わらせたくなくて、ヨーロッパに入るとページをめくる手が滞ってしまうほどだった。

 旅の魅力は旅した本人の魅力に比例する。善良で独りよがりなロマンチストである沢木耕太郎は魅力的な人物だ。この人が私の恋人か、親しい友人だったらいいのにと思ってしまう。

 あなたが見た美しい風景や、おいしかった食べ物、頬を撫でる風や、数え切れぬ後悔、それから出会った人たちの話を何度でも聞きたい。

 もう知っているのにビールを片手に何度も同じ話をしてほしい。だから私はこの本を、この先もまた何度も手に取ることだろう。


『深夜特急1―香港・マカオ―』

『深夜特急2―マレー半島・シンガポール―』

『深夜特急3―インド・ネパール―』

『深夜特急4―シルクロード―』

『深夜特急5―トルコ・ギリシャ・地中海―』

『深夜特急6―南ヨーロッパ・ロンドン―』

沢木耕太郎

新潮社