前作『横道世之介』は青春小説の金字塔であるが、こちらもこじらせ青春篇であり、まだまだ青春篇である。
24歳になった世之介は相変わらずのダメ人間で、こんな人間にはなかなかなれないと思うようなすばらしい人物でもある。
あの頃を思い出す未来の登場人物たちは、不安で、かっこ悪くて、未来を思い浮かべて人知れず震えている過去の自分を、抱きしめたいような気持ちで回想する。そこには同じようにかっこ悪い世之介がいて、けれどいつも自分を肯定し、応援してくれていた。
マラソン選手に声援を送るときのように「頑張れ」と呟く。頑張れ桜子、頑張れ浜ちゃん、頑張れコモロン、頑張れ隼人。頑張れ亮太。
「涙なんて流さずに笑いながら読んでください。」カバーにはそう書いてあるのに、何度読んでも涙を流さずにいられない。
登場人物たちのように、私の人生のそばにも世之介がいてくれたら、どれほど心強いかと思うのだが、私は本で世之介に出会えた。
私を慰めて応援するために書かれたのではないかと錯覚するほどに私の人生に必要なこの一冊、ハードカバーのタイトルは『続横道世之介』だったが、文庫化の際に『おかえり横道世之介』に改題されている。そのタイトルのなんと似合っていることだろう!
おかえり、世之介。ずっと会いたかった。
『おかえり横道世之介』
吉田修一
2022年 中央公論社