今回読んだのもそんな一冊。
江戸の都市計画 (文春新書 (038))/童門 冬二

¥714
Amazonサイトの内容紹介:
埋立て地を拠点にした家康、政治都市化を企てた知恵伊豆、健全化を求めた吉宗──江戸を築いたリーダーたちの見識と決断を描く
ま、そこまでエラソーな内容ではないですけど、江戸時代史と合わせて、今の東京の原型を知るにはベンリな本でした。
歴史作家として有名な童門冬二サンがいくら江戸時代とはいえ都市計画についての本を書くとは?
と思いましたけど、彼の経歴を見て納得。
童門サンは作家になる前は都庁政策局長だったんですね。
徳川家康がそれまで野山や田畑、湿地帯だったところを埋め立てて作ったのが今の東京の中心地でした。
お茶の水の北側の山を深く掘って神田川とし、そのときの土砂を埋め立ての一部に使ったそうです。
赤坂にあった大きなため池を埋め立てて大名屋敷としたり、今に至るまで東京は埋め立ての歴史であることを再認識しました。
著者は、この大規模埋め立てについて、ちょっと面白い考察をしています。
それは、それまで関東を支配していた北条氏の影響を排除したい、そのためには、今までなかった土地に都市の中心を据えることだと考えたというのです。
現代でも埋め立て再開発は「その時の為政者の理想を実現する実験場」だと著者は言います。
確かに淀橋浄水場を埋め立てて造った新宿副都心や、お台場なんかを見れば納得です。
そして、旗本や大名に全体の60%を、それらを支える存在である商人に20%の土地を割り当てて今の千代田、中央、港といった都心部の形を作って行ったことがよくわかりました。
それ以後も、江戸城近くにあった吉原を市街地の外である浅草に移したりしています。
その後人出が集まるようになった浅草が新たな繁華街として発展していくなど、江戸の歴史はいろいろと興味深いです。
江戸時代の名君を紹介した「小説上杉鷹山」などで有名な童門冬二サンですが、歴史小説家として見た場合、司馬遼太郎サンに比べて数段劣るように思えます。
それは、本書のように歴史小説の副読本的なモノを読むとよくわかります。
司馬サンの、歴史をまるで解剖でもするように精緻に分解しながら読者にわかりやすく説明するのに対して、童門サンの行う検証はかなり荒っぽく、書かれていることも史実なのか本人の主観なのかが判然としません。
フィクションである小説ならまだ良いですが、本書のような解説書ではそれでは困りますが、随所に童門サンの主観や感想が顔を出してくるところが鼻につきました(>_<)
でもひとつ良いことが書かれていたので、備忘的にご紹介。
市民意識が向上した江戸期。
江戸市民が自ら通行料を元手に永代橋の架け替えを行ったという挿話が書かれています。
著者はこの例を引いて、 「大衆を公衆化する」ことの重要さを説いています。
「大衆」とは
自分の意見なく付和雷同する群れのことと
と規定しています。
それに比べて「公衆」は、
・情報を集める能力
・それを分析する能力
・分析した情報の中に含まれている問題を理解する能力
・その問題の解決策を考え出せる能力
を持ち、生き方のモノサシをきちんと持っている存在のことだとしています。
これって、メディアの報道を鵜呑みにすることや、会社が誤った方向に行こうとしてもそれを正さない中間管理職の存在にも通じるなーと、ひとりで納得していたのでした。