記憶を失う

毎日いろんな夢を見ます。
鮮明な夢もあれば、ふんわりとした曖昧な夢もあります。
けれど、どんな夢も失われていきます。
映像に残すことも、人に見せることもできません。

あんなにリアルな感覚を持っていたのに、あれほど感情が揺さぶられたのに、
夢は目覚めた途端、どこかにサラサラと溶けるように失われていきます。

夢と同じように、私たちは毎日の記憶を少しずつ失うことを経験しながら生きています。
記憶をなくすということは、とても怖いことなのに、それほど私たちは恐れていません。
不思議ですね。

日々の記憶の失われ方は、ほんの少しずつなので、気付かないうちに消えているという感じです。
仕方がないことだと諦めていますが、
大切な記憶が失われていく切なさや、もどかしさを、私たちは知らないわけではありません。
もしかすると毎日夢の記憶を一瞬で失うことを繰り返し、その辛さに慣れていこうとしているのかもしれません。

映画「君の名は。」見ました。
私たちは実ははるか昔から生きていて、長い記憶を胸に秘めています。
そしてその記憶を全て失って生まれて来ました。
けれど、時折、消えていたはずの記憶が一瞬心をかすめます。
夕日を見たとき。花の香り、水辺の光、星の輝き。
鳥の声、そよぐ風、その人の目。

私たちはここに生まれ来るとき、一番大切なものを預けて来ます。
それが記憶です。

私たちは何度も何度も記憶を預け、失うことを経験しているのでしょうね。
それはきっと、ただ思い出したいからです。
記憶を失うことを私たちが恐れないのは、どこかでそのことを知ってるからですね。

流れる水に飛び込んで、光る石を見つけるように、
探している人に出会えるといいですね。
むかし、どんなことがあっても諦めないと約束をした、あなたのかたわれに。

この映画を見た方がいいよって、あなたも誰かから勧められましたか？
その人は、よくわからないけど見てほしいって言いましたか？
きっとあなたに「思い出して」と伝えてるのです。
遠い記憶がふとよぎったのです。

だから私も、あなたにこの映画を見てほしいと思います。