白川静さんという漢字を入り口にして、古代中国を見ながら東洋の姿を探し求めた先生がいます。
著作の中に、孔子について書かれた本があります。

梅原猛さんとの対談本で、孔子とはどういう人だったかについて語った内容を少し紹介します。(平凡社「呪の思想」より)

白川
例えばね、人間としていちばん良い在り方はどういう生き方かと訊ねるとね、孔子はね、理念的には中庸の人間がいちばんよろしい。
中庸がよろしいが、しかしどんな場合でもね、中庸を失わんという、そんな人間はおらんのです。
それで、その次にはどんなのがよろしいかというと、孔子はね「狂狷(けょうげん)」の徒がよろしいと言うておる。「狂」というのは、進みて取る人。「狷」いうのはね、死んでも決してそんなことはしませんというほどのね、潔癖症の人間。

梅原
それは「中」と反対ですわなぁ。

白川
狂狷の徒がよろしい、と言うんです。それでね、智恵者がよろしいとは言うておらんのですよ。
中略〜

白川
大体ね、左右に振り子運動しなければ進めんのです、ものは。(身振りしながら)こうやらんとねえ、進めない。ロケットでない限りはな(笑)


仏教用語で中庸という言葉があります。
お釈迦様は私たちに、いつも中庸でいなさいと教えています。孔子もそれがいちばんいいよと言ってます。
だけど、ずっと中庸の場所にはいられないもんだ。
中庸の次にいいのは狂狷の人だよ、というのが孔子の考えだというのです。

狂狷という言葉は振り子のあっちとこっちに分かれている言葉です。
狂へ狷へと左右に振られない限り、前には進めないよ、と先生は仰っています。

そのあとの対談はこう続きます。

梅原
そういう人が面白い人間じゃないですかね。孔子自身も自分を狂狷の徒と思ったでしょうか。

白川
自分でそう思うとるに違いない。そりゃあ彼はね、何遍もクーデターをやっとるんだ。それに失敗して斉の国に逃げたり、或は衛や宋、陳・蔡から楚にまで逃げたりしとるんです。

梅原
そうするとやっぱり、失敗した革命家ですね。
中略〜

白川
そうそう。まぁ理想主義者であったわけです。

梅原
巫女の私生児で、そして失敗した革命家となると、もうまさに狂狷ですね。

白川
だからね、孔子を悟った人間にしたらあかんのですわ(笑)

この対談は白川先生が92歳の時に行われているのですが、
激しい学生運動の最中の大学で、何にも動じることなく学問に没入していたご自分の姿と、狂狷の徒がいいと言った孔子の言葉を重ねてらっしゃるのだなぁと感じます。

「左右に振れることなく前に進めない」
白川先生の言葉かっこいいなぁ(笑)
心を掴まれた言葉でした。