ハタチくらいの時でしょうか、なんか人とうまく通じあわず、私はとても落ち込んでいて、寂しい気持ちで道を歩いてました。

どこかの観光地だったんだと思います。そこはちょっと人通りの多い道でした。

私の前をお母さんと3年生くらいの女の子と、幼稚園くらいの男の子の親子が歩いてました。

どんなやり取りがあったのかはわからないのですが、お母さんが女の子を叱って、お母さんは男の子と2人で女の子を置き去りにして、スタスタ前を歩いて行ってしまいました。

女の子はちょっと立ち止まっていましたが、怒って行ってしまったお母さんたちの後を追って、しぶしぶ歩き出しました。

見てると、女の子はまた立ち止まり、首から下げていたカメラで、前を行く2人をカシャンと撮ったのです。
自分を置き去りにした背中を。

私はこの光景が忘れられないのです。

私も置き去りにされている気持ちだったんでしょうね。

カメラのシャッター音と一緒に、彼女の気持ちが聞こえた気がしました。

「大好きなのに」

その子は置いて行かれた自分を可哀想に思ったり、すねたり、叱ったお母さんに腹を立てたり、どんな風でも選べるのに。
彼女は写真を撮りました。

なんだか、その場からスッと脱け出てる行動だと思いました。

カシャンと写真を撮る女の子を見て、私はちょっと自分の吹き溜まりみたいになってた気持ちの場所から抜け出しました。

見たわけでもないのに、彼女の撮った背中の写真は、今も私の心の中にあります。