生まれて初めて、アイスショーというものに行ってきました。

以前の記事
【オーケストラDVDを見て思った本番前の集中について。】
の後半に書きましたが、 

初めて羽生結弦選手の演技をみて
直感的に「氷と交流してる」と感じ
オリンピックでの強靭なメンタルコントロール力に興味を持ちました。

もともとフィギュアスケートって、
メンタリティがとても重要なスポーツだなと思ってはいました。

本番前の、様々な雑念、雑音、言霊。
それらをはね除け、ベストなコンセントレーションを手に入れなければならないのは、お芝居と同じ。


以前、私が尊敬していた音響監督、浦上靖夫さんと【天使な小生意気】でご一緒していたとき

「良いものを創るには、本物に沢山触れることが大切。だいたい人は若いうちに知識を詰め込むけど、それが役に立つのは二十代前半まで。
社会に出てからはほとんど、知識は使わない。

その後の人生で一番必要になってくるのは
センス。
色んなものを感じとっていく感覚、感性。
でも、センスって、学校では教えてくれないんだよね。

センスや感性を磨くには、本物を見ること。
本物と言われる良いものに沢山触れることしかない。

例えば、パッケージだけ変わっても中身が同じ演技をしていたら、飽きられちゃう。

全体のバランス。。。
お弁当で言うとおかずの種類とご飯のハーモニー。

せっかく美味しい料理でも、たったひとつバランスを崩すスパイスがあったら、全体がダメになる。それを感じ取れるのが感性。」

アニメの黎明期から本当に様々な名作を創り続け、育てても頂いた浦上さんの言葉は、ずっと私の指針です。

だから今も(なんか気になるな) と思ったことには、ジャンルを問わず飛び込みます。
畑違いのスケートでも、表現の世界は必ずどこかで繋がっているから。

フィギュアにはあまり詳しくない私でも、プルシェンコやジョニー・ウィーアーの名前くらいは知ってます。詳しくないのに演技が何となく頭に残ってるって、凄いことだと思います。


浦上さんが、アルプスの少女ハイジのとあるシーンを収録した時のエピソードを話してくれた事がありました。

完成したものを見ていたとき、
大人達は感動して泣いてるのに、
子供がそのシーンを見てクスクス笑っているので

「なにが可笑しいの?」ときくと
「だって、嘘泣きしてる~(笑)」

それを聞いて愕然とし、子供も夢中になるようなものを作らなければ!と思ったと。


大人は、頭の中でつくって感動できるんだよね。 

子供は、感覚でそのまま受けとる。

だから、子供には嘘はつけない。

そう。

演技も朗読も、
子供が、遊びを忘れて
完全に感情移入するような
本物の芝居をしないと。

読み聞かせの時は、いつもそれを目指します。


このアイスショーはたまたまネットで知りましたが、おそらく、こんなに歴代の
【本物の表現力】を持ったスケーター達が一同に介することって、あまりないんじゃないか?

そして羽生選手の強靭な精神力の秘密も分かるかも?と思い、
 
試しに先行予約で申し込んでみたら
初日のアリーナ南席が当選したのでした。


初めて未知の世界に足を踏み入れた13日。
初めて目の前でみるリンク。

大きい!




TVより数倍大きく感じます。

オープニングが始まり、羽生選手が出てくると
「キャ~~~!!」
と会場はものすごい熱狂。

あまりこういう場所に来たことなかったので最初はかなりアウェイ感があり、客席側で聞く歓声に時々ビクッとしながらも

次々登場するスケーターの演技を見てだんだん個性や魅力の違いがわかってきました。


凄い…!!


と感じたのは、プルシェンコさん。

みんな「プルさま」と呼ぶんですね。 


初めて生で滑っているのを見ましたが、
何か、急にリンクが小さく感じました...

かなり離れているのに、
目の前にいるように距離感がなくなる。

なんだか見てるだけで、
プルシェンコさんの動きに感応して体がピクンと動いてしまうし、自分も動いてるように芯が熱くなる。

なんだろう?
あの強烈な吸引・圧倒力は?
感情移入とは違う、共感覚? に引き込む爆発的なパワーは…?

全身から強烈なエネルギーを
会場いっぱいに放っていました。

【生】って、フィルターが掛かってないような、独特の本人の「気」のようなものを感じます。

遠いのに、ものすごい近くに迫ってくる。

プルシェンコさん、本当に凄かった。
レジェンドと言われるのがわかりました。


そのプルシェンコさんが、ソチで羽生選手と戦うはずだったプログラムで滑った直後、

羽生選手が衣装を着て出てきたときは
会場のボルテージはMAXに。 

羽生選手のスケーティングは、
ジャンプがなくても、本当に体の使い方が大きく、しなやかで、

リンク全体・全方向に、
視線もエネルギーも飛ばしていて
やはりリンクが小さく見えました。

あんなに大きなリンクなのに、狭く感じる。

これって、舞台芝居も一緒だよなあ。
オーラ放っている役者は舞台で大きく見える。

見えない気が爆発して
隅々にまで行き渡っている感じ。


場を制する、ってこういうこと。


「制する」って、支配しているようで
場と「交流」してるんだよね。

押さえつけるのではなく、
隅々までエネルギーが行き渡って、漲ること。

その満ち溢れた感覚を、
両者が心地良い、と感じること。


そして、その心地良さを伝えるのが、芸術。


芸術って、美しいものを昇華して、表現することだと思うのです。

それは感覚だけでは不可能だし
一朝一夕にはできない。

見せる・伝えるための卓越した技術と 、
基礎的な訓練と、集中力が絶対に必要。

そしてなにより、

自分自身が普段から常に【美しいもの】を探し求め、より高みを目指して【純粋】でいなければならないと思う。


「表現力」とは、
「感覚を翻訳する技術力」だと思うから。


その感覚、内側にあるものが、
そのまま演技ににじみでる。

 羽生選手は本当にいつも真剣に
純粋さや美しさと向き合っている人なんだな、と感じました。


みんな、一流でした。

それぞれがアートでした。


ジョニーウィーアーさんはインタビューで
「自分の才能を人に分かち合う能力をもっている人」として、レディーガガをあげてました。

スケートをするモチベーションを上げるときに見るのは羽生選手だと。


ある意味、

「その人にしか感じ取れない美しさ」
があるのだと思います。

それを、
その個性を、

最後まで貫いて、染まらず、
周りからの反発や圧迫に負けないで、
自分を信じきることができる力が、

「自分の才能を分かち合う能力」なんじゃないかな、と思います。


そして、

自分の美しいと感じる心を信じること。
自分のやってきたことを、信じること。
自分の感性、喜び、幸福感を信じること。



みんな、もって生まれた役割がある。


古い時代から新しい時代への架け橋の一端を、
誰もが担ってる。

その、

それぞれが受け持ったセクションを知るには、

自分のもって生まれたものを

見つめて、受け入れて

認めること。


自分の役割を見つけて
認めた人は幸せです。

それを、本気で信じきれたとき、
本来の力が現れてくるのだと思います。


初めてのアイスショー。

表現者として、色んなことを感じました。
異文化・異業種交流も、たまにはいいなあ。


そしてオリンピック2連覇、
改めて本当におめでとうございます。

間違いなく、彼は自分の役割を完全に自覚した人間の中のひとりですね。

表現の世界の別ジャンルの
【本物たち】に触れた1日でした。