心友 から、
「御来光」というタイトルのメールが届きました。
富士山登山に無事成功したので、
御来光のお裾分けとのことです。
嬉しさと感激とホッとした想いで、
銀座『日本歳時記 壬生 』のガラス扉を開きました。
今度、美帆ちゃん に会ったら、
ムツゴロウさん並みに、
「よーしよしよし」ってしてあげようと思います。
さて、
今月の『壬生 』のお時間です。
玄関先の掛け軸は、
「お盆さま」でしたが、
本来は、
今がちょうどお盆時期にあたるようですね。
掛け軸の下には、
「みそはぎ」というお花が生けてありましたが、
この「みそはぎ」、
お盆に登場する仏花とのことです。
お部屋には、
100年前の「般若心経」が掛けられてます。
また、
女将さんが、
「しゃれこうべ」の付いた安寿様の「時を止める時計」を見せて下さいました。
背筋がぞくぞくっとしてきたところで、
お料理スタートです。
8月のお料理テーマは、
“正法寺”
でした。
大きな蛤が出てくる前に、
炊きたてホヤホヤのご飯が掌に置かれました。
お粥さんに近いご飯です。
二口食べたところで、
超BIGサイズの蛤がやってきました。
なんと12年ものとのこと。
貝殻だけでもずっしり重いです。
私の掌ほどの大きさがあります。
12年もの間、
何度も死にかけては、
生き返った傷跡があります。
赤味噌と胡麻で絡められた蛤を、
そのまま食べたり、
ご飯にのせて食べたりします。
食べ終えた貝殻の中に、
日本酒を入れて、
味噌と混ぜ、
味噌酒にしてぐいっと呑みます。
生まれてから12年後に、
私達の口に届いた蛤は、
「あなたの元に届くために、あなたの口へ飛んできました」
と言ってるんだよ。
と、女将さん。
つまりは、
私に食べられる運命だったんですね。
目一杯おいしさを味わって、
ありがたく頂きましたので、
いいところへ飛んできたと思います。
強運の大蛤です。
120年前の蒔絵のお椀が運ばれてきました。
女将さんに、
「私の名前は、この蒔絵と同じ発音の真希絵ですよ~」と、
伝えようか迷いましたが、
喋りかける余地なく、
女将さんのお話が始まったので、
やっぱり今日も、
女将さんからは、
終始「まりちゃん」と呼ばれ続けてました。
蓋を開けると、
冬瓜をすりおろして作られた精進だし(お盆ということで)に、
手作りの「飛竜頭」が座り、
たっぷりの穂紫蘇がのせてあります。
飛龍頭を割って、
穂紫蘇を周りに散らして頂きました。
こうして穂紫蘇を散らすのは、
「散華(さんげ)」といって、
仏様に供養するために、
華(花)を散布することからきているそうです。
何やら白い物体が目の前に。
触ると、
めちゃ冷たいです。
和紙を凍らせてあるようです。
上には、
「かささぎの橋」に見立てた赤カブがのっかってます。
因みに、
「かささぎの橋」とは、
七夕の夜に、
牽牛と織姫を逢わせるために、
たくさんの鵲(かささぎ)が天の川に翼を連ねて渡したという橋だそうです。
そうでした、
今年の旧暦の七夕は、
8月16日なんですよね。
だから、
七夕にちなんだ「かささぎの橋」を作って下さったんです。
こういうところからも、
日本の歴史が学べます。
この氷和紙を開くと、
鯒・鯵(紫蘇で巻かれてます)・青柳・がいました。
大根のツマが、
驚くほどピカピカに光ってました。
お皿に盛る直前の直前に切ってあるからだそうです。
食べながら、
氷和紙を触っていると、
先程のお椀で熱った体から
一気に熱がとれました。
冷房なんていりません。
昔の人はこうして暑さを凌いでいたわけです。
おばあちゃんの知恵袋ですね。
日本は昔から、
お盆にさつまいもを食べる風習があるんですって。
というわけでの丸十(さつまいも)です。
鱧もさつまいもも、
シンプルにかるーく塩だけがふってあります。
水茄子が見えないほど、
雲丹ごっそりです。
水茄子は、
浅漬けなんかにしないで、
水で食べるのが一番とのことで、
おだしの入らないお水に入ってました。
水茄子自体は、
ちょびっと塩に浸けられていたようです。
雲丹は、
ほんの一瞬だけ蒸されたものですが、
熱が入りすぎないことで、
雲丹本来の甘みや旨みがより一層引き立ってます。
このお料理は、
茄子の器に入ってました。
「海の鰻」とも言われる脂の乗った太刀魚が、
醤油とお酒に漬けられ、
胡麻をまぶして、
焼きつけてあります。
パリパリ胡瓜は、
まるでスイカそのものの味わいです。
そんなスイカ風胡瓜を食べきると、
「ピジョンレッド(鳩の血)」と言われるお皿に、
本当のスイカがのっかってきました。
これを女将さんが、
一人一人に取り分けて下さいましたが、
上下で切り分けてあります。
上が甘く、
下は、
甘みが少ないため、
お口直しとのことです。
確かに、
上部分はめちゃんこ甘く、
砂糖がまぶしてあるかのようでした。
「一貫氷」とは、
昔、氷屋さんから氷を買う際に、
一貫目の氷を1単位として購入したようです。
いや、
氷の単位は、
今でも尺貫法とのことでした。
その氷を買った時のように、
麻で結ばれた氷らしきものは、
「蓮カステラ」です。
ここで、
『壬生』の大将が団扇を持ってご挨拶にいらっしゃいました。
このお菓子の作り方を伺うと、
「蓮とメリケン粉と砂糖を混ぜて蒸したんだよ。昔はこうして麻紐で結んで氷を買ってたんだよ」と。
まだまだ温かいカステラで、
ふんわりしっとりとした優しさに溢れてます。
どことなくトウモロコシに似た味わいでした。
しかし、
温かいお菓子なのに、
心なしか、体がひんやりしてきたのは、
「一貫氷」という言葉と、麻紐で結んであるビジュアルからでしょうか。
言葉や視覚からも、
人間の体感体温に関わってくるんでしょうね。
そして、
スプーンに入った「濃茶(抹茶を濃く溶かしたもの)」を飲み(食べ)、
葉月の『壬生 』のお開きです。
帰り際、
女将さんから、
土に横たわって育つ極太胡瓜を頂きました。
太陽の恩恵を浴びてスクスク育った感があります。
肥沃な土壌と清らかな水と太陽と、
作り手さんの手のぬくもりあってなんでしょうね。
日本は異常な暑さですが、
やっぱり恵まれた国です。
目に見えず、
耳に聴こえない大切なものがたくさん詰まった日本を誇りに思い、
生涯、
感謝の気持ちと共に、
ニコニコしながらごはんを頂きます。