パリで使っていたアンティークピアノの話をきっかけに、次々と、出会った古いピアノのことを思い出しました。

ピアノのリレーみたいです。



今日は、北軽井沢ミュージックホールの主、長老ピアノの話です。


2年前の夏、サマーフェスティバルでピアノを弾きに北軽井沢ミュージックホールへ行きました。

リハーサルで舞台に上がると、ヤマハのグランドピアノが中央にセッティングしてあったので早速弾き始めました。

その時、会場にいたのは私ひとり。

なのに何か落ち着かず、誰かに見られているような視線を感じて辺りを見回すと、舞台の隅っこに、ホコリだらけでボロボロの大きなグランドピアノが放置されてるのを見つけました。

ピアノの鍵盤側が壁に押し付けられ、大きな図体のお尻をこちらに向けていじけているような様子。

後から聞いた話によると、100年ほど前にドイツで作られたグロトリアンというピアノで、外国人が船で持ち込み、50年前にミュージックホールが出来た時にここに来たらしい。

冬は雪に閉ざされたホールに放置され、調律も調整もされないままひどく老朽化して、もう何年も弾かれていないとのこと。


強烈に「このピアノを弾かなきゃ」という使命感のようなものを感じてしまい、舞台の中央に運び出してもらいました。

長老登場。

その瞬間、空気がキリッと締まったのです。


本番では、バッハとシューマンの二曲だけこのピアノで弾きました。

それは素敵な経験でした。

強靭な生命力で生き抜いてきた100歳の長老が、しわがれ声で静かに昔話を語り始めたのです。

お客さんがピアノに吸い込まれるように聴き入っていることを、肌身で感じました。


北軽井沢ミュージックホールは中庭とひと続きの半野外の会場です。
たぶんずっと前から、長老ピアノはここの自然の一部なのでしょう。
弾きながら、ピアノの音に風がたわむれ、鳥が合いの手を入れて歌っていました。


この日の長老ピアノとの出会いから、アンティークピアノの工房を訪れることになり、ピアニーノに出会いました。