十数年前、書評に惹かれ『パリ左岸のピアノ工房』(新潮クレスト・ブックス)を読みました。
パリ左岸の裏通りにあるピアノ工房のお話。
ピアノを生き物のように扱って再生させていく職人と、それを取り巻く魅力的な登場人物を通して語られるノンフィクション。
読み進めるうちに、
あれ?なんかここ知ってる?
ヌヴーさんという工房の主人の名前が出てきて、
あーやっぱり!
私がパリに留学していた4年間、ずっと弾いていたアンティークのスタインウェイを、先生と一緒に選びに行った日の記憶がフラッシュバックしました。
先生に連れられて行った工房は、たしかに左岸の住宅地のひっそりとした裏通りにありました。
石造りの建物の一画に入口があって、笑顔で出てきたヌヴーさんは、自分の家に招き入れるように親しげにエスコートして、100年前に作られたピアノを紹介してくれたのでした。
あのピアノに出会ってなかったら、ピアノを止めていたかもしれないと思うほど、私を導き、変えてくれたピアノです。
帰国するときに手放してしまったのですが、最後の日に、また会えますように!と願いを込めて、ピアノの下にもぐって裏側に秘密のサインを書き入れました。
いつか再会した時、修復されて塗装が変わっていても必ず見つけられるように。
いまうちにいるピアニーノも、代々の持ち主との出会いと別れを経て、人間より遥かに長く生き延びて、弾かれるのをずっと待って来たのだと思うと、なんだか神聖な気持ちになります。
写真は今年3月に行った時のパリ左岸。
ヌヴーさんな工房はこの近くだったかも。。。