北軽井沢で出会った満身創痍のピアノのことは、すっかり忘れていたのです。


約一年後、今年の9月でした。

北軽井沢のアンティークピアノ工房の和田さんから、例のピアニーノが完成したので弾きに来ませんか?と連絡があり、再会しに行きました。


ピアニーノは蘇っていました。


弾いた瞬間、昔可愛がっていた犬の感触が蘇って来ました。

抱き上げようとすると、犬の方からもタイミングを良く跳び上がってきて懐におさまる、あの感じ。

鍵盤に触れる指先に向かって、鍵盤が自ら積極的に参加してくる。


そして音!


現代のピアノの生々しい音とは本質的に違う。

180年前のパリから響いてくるような音。

当時の匂いや湿度や温度まで連れてくる音。


音量は大きくないのに響きは長く伸びて、耳でその響きを追っていくうちに別次元に吸い込まれ、いつのまにか瞑想状態になっていく。

うっかり100年たっていたとしても、それはそれで納得してしまいそうな恐さもある。


つまり私は、長い眠りから覚めて張り切って歌うピアニーノに、魅了されたんですね。



ライオンの足