雷鳴が轟く
宗滴「もし、わ主が貞景様であったなら、わしは死んでおったな」
滝「と、申されますと…❔」
宗滴「あれは…わしが初陣の時じゃ」
宗滴「敵が逃げおったので、わしは手勢を引き連れ追撃に移ったんじゃが、それは敵の罠じゃった。わしは忽ち敵に囲まれてしもうた…。その時、貞景様が全軍を率いて我らを助けに来てくれたのじゃ」
野崎「そんな事が…」
宗滴「わ主のおかげで勝ったわ❕と貞景様は申された」
山村「それは…何故に…」
宗滴「その戦いは序盤は敵が優勢じゃった。三百騎余り討ち取られたからのぉ。貞景様も退くしかないとお考えだったようなんじゃが、わしが取り残されておると知って、家臣が止めるのも聞かず、わしを救う為に真っ先に飛び出して行かれた。家臣もそれを追ってわれ先にと飛びかかる。敵はその勢いに恐れをなし、怯んだ。その隙をついて、お味方がなだれ込み、五百騎余りを討ち取ったのじゃ。」
滝、伏目がちに聞いている。
宗滴「…貞景様は恩着せがましい事は一言も申されなかった。」
野崎、軽くうなずく。
宗滴「後に義理の兄の景豊殿から貞景様への謀反を持ちかけられた時、わしは悩んだ…。景豊殿はわしを高く買っておって、わしが陣頭に立てば勝てると考えておったようなんじゃが…。如何にも、かいかぶりすぎじゃ。それに御恩のある貞景様に弓をひく気にはとてもなれん。その時じゃ、わしが教景から宗滴になったのは」
山村「出家されたのでござりまするな」
宗滴「左様。貞景様に景豊殿の謀反を告げた時、貞景様は申された。かたじけない。わ主もつらかったろう、と。その時、わしはこの方の為に身命を賭してお仕えしようと心に誓ったのじゃ」
山村、腕を組む。
宗滴「ま、昔話はこれまでじゃ。滝…。わ主の心配はもっともじゃ。なれどな、味方が多ければ、それで勝てるというものでもない。山村が申したように大人数は目立つ。故にかえって難しい場合もある。小人数の方が良い場合もある。わしは今がその時じゃと思う。敵に気取られずに動くにはこの人数で良い。円官寺の坊主共は確かに我らの5倍じゃ。しかし、時が経てば西光寺からまた坊主が来る。10倍、20倍になるやもしれぬ。そうなれば、もう殿下を救う手立てはなくなるやもしれぬ。滝、頼む❕わしと共に戦ってくれ」
と言って頭を深く下げる。
滝「(両手をついて)滅相もござりません。このそれがしこそ、殿と共に戦わせてくださりませ」
宗滴「かたじけない」
と言って立つように促す。
宗滴「早速じゃが、滝と早見は…」
そこから小声になり、何を言っているのか聞こえ無い。
円官寺内、坊主が寝ている。座りながら寝ている者もいる。
そこへ突如、表門を打ち破ろうとする音が❕
円官寺僧侶達、驚いて表門に集まる。
ついに打ち破られる表門。そこに宗滴と数人の男達が。
宗滴「降れば命だけは助けてやる」
円官寺僧侶A「ほざくな❕」
円官寺僧侶達、一斉にかかるが山村や野崎達にバタバタと倒される。騒ぎを聞きつけ裏の方からも僧侶が集まってくる。
晋二郎「あれは宗滴じゃ❕」
円官寺住職「飛んで火にいる何とやらやな。者ども、討ち取って名を上げるんや❕」
円官寺僧侶達、またも一斉にかかる
晋二郎「それにしても、表から来るとは大胆というか…」
晋二郎、ハッとして裏に行く。そこには島を助ける滝と早見の姿が。
晋二郎を見つけた島、素早く飛びかかる。
島「この野郎❕」
ボコボコに殴られる晋二郎。
早見「島殿❕」
滝「好きなだけ殴らせてやろう。我らは我らの仕事をするのじゃ」
早見、軽くうなずく。滝と早見、かがり火を倒して寺に火をかける。
表で戦っている僧侶達、裏に火の手が上がっている事に気づく。
円官寺僧侶B「火事じゃア❕」
義経(ぎけい)「どこからじゃア❕」
円官寺僧侶C「裏からのようや❕」
動揺する僧侶達。円官寺僧侶達、矛先が鈍る、その機を逃さず、散々に討ち取る宗滴達。怯む僧侶達。
円官寺住職「おい、なにしてるんや❕義経(ぎけい)早よぅかからんか❕」
ジリジリと住職ににじり寄る宗滴達。ジリジリと引き下がる円官寺僧侶。
宗滴「命を捨てるに値する住職ならばそれがしにかかってまいれ。さもなくば退くことじゃ」
僧侶達、後ろの方からわらわらと逃げ出す。
遂に一人残される円官寺住職。
宗滴「わ主が住職か❔」
円官寺住職「待っ、待ってくれ。うらは…うらは雇われただけや!」
山村や野崎にぎゅうぎゅうに縛り上げられる住職。
宗滴「またと無い人質じゃな」
うなだれる円官寺住職。
山村「火を消しまする🔥」
宗滴「頼む」
そこへ島が現れる。両手をついて島がひれ伏す
島「申し訳ござりませぬ」
宗滴「(かがんで)わ主のおかげで勝ったわ❕」
島「はっ…。畏れ入りまする❕」
宗滴「ところで、通じておったのは…❔」
島「はっ、あちらに…」
指差す方向にぐったり倒れている晋二郎がいる。晋二郎に近づく宗滴と島。
島「殺してしまったようで…」
宗滴「やはりこやつか…死んで当然の奴じゃ…」
宗滴、首の脈拍を確かめようと首を掴む
晋二郎「(腕を掴んで)ギャー❕❕」
宗滴、思わず手に力を込めてトドメを指す。
宗滴「(立ち上がり)死ねばいいんじゃ、こんな奴」
晋二郎の頭に思いっきり蹴りを入れる
宗滴「さて、住職に話を聞こうか❔」
宗滴、住職に近づく。
宗滴「名は何と申す」
住職、押し黙っている
野崎「言え❕」
野崎、ボコボコに殴る。
宗滴「さっさと申せ❕この痴れ狗が❕」
宗滴も蹴りを入れる
円官寺住職「分かった、分かった。言う、言う。暁了、暁了や❕」
宗滴「では、暁了。石田の西光寺以外に同心している寺はあるか❔」
野崎、腕を振り上げる。
暁了「分かった、分かった❕えーと、何じゃったかな」
野崎「とぼけるな❕」
宗滴「長太、あとは頼む」
野崎「はっ」
二人のやり取りをよそめに山村を呼んで、その場を離れる宗滴。
宗滴「敦賀の軍はいつ着くかな❔」
山村「夜を徹して、こちらに向かっているよし。早朝には着くかと」
宗滴「上々じゃ」
「その後、宗滴は敦賀から来た軍と合流。府中表にて一向一揆の仲間と思しき寺の僧侶達を片っ端から討ち取ったり、捕縛したりしたのでございます。」