11月の金曜日。
すっかり冷えてきた夕方。
この時期の駅南口は華やかに彩られる。
少し早めに飾りつけられた街路樹のイルミネーションが冬のイベントを髣髴させてくれる。
気温は低いのに、不思議と温まるような感覚になるのは何故なのだろう。
そんなことを考えながら、女は右腕につけられた腕時計を見る。
今の時間が18時15分だということを知ると、周囲を見渡して軽くため息をはく。
その息はほんのりと白く色付き、冷たい風に流されて消えていった。
女の右手薬指には、トパーズのリングが輝いている。
左手に輝く結婚指輪とは別で、右手につけるためのペアリングを毎年交互にプレゼントするという約束で、結婚4年目の今年は女がプレゼントすることになっている。
そのペアリングを眺めて、新品のコートのポッケにその手を差し込み、その中に小さな箱があることを確認し少し照れくさく微笑む。
約束の時間は過ぎていたが、苦にはならない。
苦にはならないが、早く会いたい思いで行き交う人々を目で追っていた。
女は再び時計を見る。
あれから更に1時間が過ぎていた。
携帯電話を開く。しかし着信もメールもなかった。
女は着信履歴から名前を探してダイヤルをした。
一方、駅北口の一角に人だかりができていた。
救急隊員によって担がれた担架から、血に染まった右腕がだらりと落ちた。
その薬指には、トパーズのリングがつけられていた。
更にその手の中では
今にも所有者を亡くしかけている携帯電話が
妻の名前を表示し
所有者の存在を知らせたいかのように、鳴っていた。