言葉 | fish-onさんのブログ

言葉

彼の言葉が私を殺した。

それは躊躇いも慈悲もない、容赦のない言葉。
私はその言葉の前に歩く術を失ってしまった。
けれど、彼を責める事なんてできない。彼には悪意なんてないのだから。


私は強い人間ではないけれど、涙を流しながら人生を渡っていくほど弱くはない。弱くはないつもりだった。

私にはルールがある。ルールに沿って私は走る。それは掟。そう、掟。それは従わなくてはならない鎖。それは誰にも犯される事のない、私だけの領域。

けれど、それすらも容易く撃ち抜かれて、粉々に砕かれてしまった。ガラス細工の調度品の様に、脆く崩れさってしまう。後に残るのは、砕かれた心の残骸。輝きを失った、ただの石。そこに価値は、ない。

私がそれを自覚した瞬間から、私という存在がひどく薄っぺらなモノに思える。存在を否定された訳でもないのに、心には到底埋めようのない穴が穿たれたように思えてしまう。その穴は徐々に広がって、私の心を石へと変えようとしている。
キラキラした宝石ではなく、鈍く黒ずんだ石。決して輝く事のない石。


私の意思はどこにあるというのだろう?


たった一言。


その言葉に殺されてしまった私は、生きていく意思を失ってしまった。どうやって走ればいいのかわからない。
わかる事といえば、これからの私を待っているのは灰色の世界。滲んだ現実。







それからの私の生活は、緩やかに、でも確実に崩壊してしまった。日常の出来事に心がいとも容易く砕かれる。誰かの言葉に撃ち抜かれてしまう。誰かの視線に心が犯されてしまう。
こんなにも脆いものなの?
その事実が私に追い討ちをかける。それらを修繕する間もなく、私の心は砕かれていく。



もうやめて…。私はもう走れない…。





それでも私の身体は、私の心に従ってしまう。無価値な私の意思に委ねられてしまう。そこには何もないのに。私の矜持はもうないのに。私の心は動きを止めようとしているのに…。


そんな限界寸前の私の心を救ってくれたのは、何故か彼の言葉だった。

彼の一言はありふれた言葉だったし、私を救おうとして放った言葉でもない。彼がそんなに気の利いた人ならば、最初から私を殺す言葉なんて言うはずがない。

それでも私の心の穴を塞いでくれたのは彼の言葉。
私の心をキラキラした意思あるモノへと変えてくれたのは彼の言葉。

どうしてその言葉が私を救ってくれたのかは正直わからない。
彼に特別な感情を抱いていたんじゃないか、と邪推する人もいるかもしれないけれど、お世辞にも彼は私の特別にはなり得ない。
ただ、言える事は、彼の言葉に私の心が殺されて、そして今は救われている、という事実がそこにあるだけ。


そう、今は救われている。


今はそれで充分なのだと、私は自分に言い聞かせる。。







そして私の掟は、新しく生まれた。

私の掟は、まだ私を走らせてくれるだろう。

たった一つ、新しい掟を加えて。