『ほのかにひとつ』

作詞〜北原白秋(1885〜1942)



罌粟(けし)ひらく ほのかにひとつ

また ひとつ


やはらかき 麦生(むぎふ)のなかに

軟風(なよかぜ)の ゆらゆるそのに


薄き日の 暮るとしもなく

月しろの 顫(ふる)ふゆめぢを


縺(もつ)れ入る ピアノの吐息

ゆふぐれに なぞも泣かるる


さあれ またほのに生(あ)れゆく

色あかき なやみのほめき


やはらかき 麦生の靄(もや)に

軟風の ゆらゆる胸に


罌粟ひらく ほのかにひとつ

また ひとつ





【歌曲集『六つの浪漫』より】



※麦生・・・麦畑。

※暮るとしもなく・・・

 暮れるでも暮れないでもなく。

※月白(しろ)・・・月が出ようとする時

 東の空が明るく見えること。

※顫ふ(う)・・・震える。

※ほめき・・・火照り。




◇若き日の 恋の悩みは

 赤きケシの花のごとく 次々と音譜照れ