文化系寄り道倶楽部 -68ページ目

文化系寄り道倶楽部

アラフォーで2児のパパであり、80年代の音楽をこよなく愛し、ガンプラを愛で、パソコンをいじくり倒し、台所を妻から奪い取り、キングの小説におびえ、究極超人あ~るで笑いころげ、夜な夜なUST配信をしている

「あー、もーダメダメ」
 わたしは自分のデスクに身をうずめてもがいた。彼の――あのキャベツを鷲づかみにしたあの人のことが頭から離れない。背の高いコートを着た男の人の後姿を見るたびに胸がときめいてしまう。

「どーしたんですか、先輩。プレゼン、だめだったんですかぁ」
 わたしは親指を突き出しサムズアップポーズを決めた。
「えー、よかったじゃないですか、でも、何か問題でも」
 後輩のサッチンは鋭い嗅覚を持っている。それもかなり天然の。

「今晩ヒマか?」
「やだー、そんな先輩からのお誘い断れるわけないじゃないですか~、で、で、なんですか、なんですかぁ」
「その話を聞きたければあと二人ほど声をかけなさい。ただし……」
「――ただし、男子禁制ですね」
「肉だ。肉。肉食おう」

 わたしの社内でのポジション――いつの間にか上には役付きのお偉いさんしかいなくなってしまった。リーダーなんていわれるのは、なんとも苦手だけど『姉(あね)さん』と面と向かって言う男子社員は後ろから蹴飛ばしてやった。
――わたしは姉御肌なんかじゃないのに、どうもこの職場はそういうキャラを無理に人に求めてくるきらいがある。

 確かにデザイナーとかPC使う仕事の人は、文化系が多い。わたしは3年間陸上部に所属していたから、他の人に比べれば、体育会系のオーラが出ているのかもしれない。でも、わたしはそんなに純粋な陸上少女じゃない。

「乾杯!おつかれー!」
 女4人。月に一度はこうしてガッツリ焼肉を食べる。
「契約成約おめでとうございまーす」
 今月もどうにかノルマを達成できた。別に会社でノルマを課しているわけではないのだが、予算を持つということは、結局そういうことなのだ。
「まぁ、これもアッコのイラストのおかげよ。あの女の子のイラスト。クライアントにすごく評判よかったんだからぁ」
 アッコはデザイナー。彼女と組んだ仕事の成約率は実に高い。
「さすがはゴールデンコンビ。決める時はきめますねー」
「ちょっと、そのゴールデンコンビっていうの、もうやめてよー」
「えー、なんでですかぁ、だって部長はいつもそう呼んでますよー」

 部長は管理者としてはそれはそれは有能な上司だ。数々のわたしの失敗をフォローしてくれた。誰からも信頼されている。唯一つ不満なのは、ネーミングのセンス。それは部長の人心を掴む一つのテクニックではあるのだろうが、とても広告を生業としている人間のセンスとは思えない。

「でも、でも、今日はそんな話じゃないでしょうー。先輩なにかあったんですか、もしかして、もしかして」
「コラコラ、そんなに煽るな煽るな。あまり期待されると話しづらくなるでしょう!」
 別に会話に入るのが嫌だったり苦手だったりするわけではない。キヨミはただただ焼肉が好きなのである。
「すいませーん。カルビ二人前とタン塩二人前追加おねがいしまーす」

 わたしは彼女の食べっぷりを見るのが好きだ。わたしも安心して暴飲暴食できる。
「あんたたちこそ、どーなのよ。最近うまくいってるのー?」
「えー、それ聞いちゃいますー。わたし、暴れちゃいますよー」
 しめた!かかった。今日はサッチンに酒の肴になってもらおう。まさかこの歳で一目ぼれしたなどと、口が裂けてもいえない。

 飲もう 今日はとことん 盛り上がろう!



ゴキブリだろうがちょっと視点を変えるとね…SFホラーっぽくなるよね




『もしもUMAが部屋にいたら』

まず、この匂いだ。
異臭。
この場所にふさわしくない、湿気交じりの、土臭い匂いが、かすかに鼻をつく

かすかに。

ヤツの身体自体はそれほど大きくないのかもしれない
或いは、この部屋に侵入して、まだそれほど時間が経っていないのか

生き物が物陰に隠れるのは、自分の身を守るためか、
或いは・・・

或いは獲物を捕食するため

どうすればいい?

まず、今一番考えなければならないこと
それはこの足
ジーンズから無防備にさらしているこの素足
もし、ヤツがこのベッドの下に潜んでいるとした場合・・・
その場合は・・・

早く足をベッドの上に上げるんだ!

畜生・・・動かねーよー
畜生・・・怖えーよー

落ち着け、落ち着くんだ
そう、相手に隙を与えないように
足を上げようとするからダメなんだ

ヒザを伸ばすようにすれば・・・

う、動く、これなら

シューーーー

次の瞬間、それはまるでヘビが舌を出しながら相手を威嚇するような音が足元から聞こえた

ぐぁぁあ!

悲鳴を上げるつもりはなかったが、思わず口から漏れた声は、口からでたというよりかは、鼻からもれたという感じだった

間一髪

ボクは両足をまっすぐ伸ばし、時計と反対周りに腰を回転させて、どうにか素足を「ヤツ」から救い出した

「畜生!スリッパを履いて来るんだった!」

だがボクのおかれている状況は、一向に改善されてない
なぜなら、「ヤツ」はボクの真下に潜んでいるのだから


ラフカディオ・ハーン=小泉八雲 ということを知らなかった。

いやいやお恥ずかしい限り

怪談・奇談 (角川文庫クラシックス)/ラフカディオ・ハーン

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本を買って、数日たったが、まだ全部読みきっていない

『怪談・奇談』に収録されているお話は、どれも聞き覚えのあるような懐かしく、恐ろしく、切ない物語。

一番トップにあるのが『耳なし芳一のはなし』
子供の頃に、何度か大人に読んで聞かせてもらったが、自分で読んだのは初めてかもしれない。

過日、子供に「怖い話って知ってる?四谷怪談とか番町皿屋敷とか?」と聞いてみたところ、知らないというこたえが帰ってきた。

「こんな話だよ」って内容を教えようとして慌てた

「あれ、どんな話だっけ?」

場面場面は印象に残っているけど、なんというか肝心なディティール……なんで、お菊は死んだんだっけ?とか「芳一ってどこに住んでいたんだっけ?」とか「どんな曲を弾いたんだっけ?」とかとか

『怪談・奇談』に収められているのは『耳なし芳一のはなし』をはじめ、ろくろ首、雪女、むじな(のっぺらぼう)など、おなじみの妖怪変化が出てくるものは面白いのだが、一番心に引っかかったのは女がらみの話だ。

もっとも有名なのは『雪女』……恐ろしい出会い、結婚、幸福、禁句、別れ
『青柳』というお話は、たびの途中で立ち寄った人里はなれた民家に年老いた両親と住む美しい女に一目ぼれし、妻にしたが、ある日突然妻が苦しみ出し、死んでしまう。死に際に妻が言うには「わたしは人間ではありません。あの旅の道中にあった民家のそばに生えていた柳の木の精です。誰かが今、柳の木を切り倒しました。もうお別れです」主人公がその場所に行ってみると、そこには民家はなく妻の年老いた両親……古い柳の木2本と若い柳の木一本の切り株があった。

なんとも、なんともせつないではないか

金沢片道4時間半の道中に読んだのだが、短編一つ一つが恐ろしく余韻が強く、なかなか次の話を読もうという気になれない。なんとも珍しい体験をした。

あとで子供たちにちょっぴりアレンジして読んで聞かせたいと企んでいるが、さて、うまく行くだろうか?

いずれにしても自分は思う

子供はもっと怖いものを知るべきだと

「ピピピピ……朝だ、朝だぞ、いつまで寝ている……ピピピピ」

 いつもなら目覚ましが鳴り響く前に目が覚める。

ピピピピ……ピピピピ……ピピピピ……

「うわー、もう、なんて朝なの」
 髪をかきむしりながら、うつぶせの体制になり、枕に顔をうずめる。手が届きそうで届かない。そんな位置に目覚ましを置いておくのは、長年の経験から年に1回か2回、目覚ましを止めて二度寝をし、化粧もほどほどに家を飛び出すことがある。まさに今日がそんな日だった。

「ピピピピ……朝だ、朝だぞ、いつまで寝ている……ピピピピ」
「はい、はい、今起きますよー」
 部屋の中の話し相手は、冷蔵庫と目覚まし時計、トースターにやかん、それから――つまりは部屋の中にあるものすべてがわたしの話し相手になってくれる。

「うー、あんまり眠れなかった……」
 昨日の出来事。彼との出会いの余韻がワタシに簡単に眠ることを許さなかった。不覚にも彼の顔はあまり覚えていない。まともに見れなかったし、あまりにもすっきりした顔立ちだったので、特徴的をつかめなかった。覚えているのは見上げるほどに大きな体とそれを包み込むとまるでマントのようなトレンチコート、キャベツを鷲掴みにした大きな手、そして……
「そしてあの子宮に響くような低い声……やばい、またドキドキしてきちゃったぁ」

 洗面所にいき、朝がスタートする。洗顔、歯磨き、にらめっこ。
「今日のあたしどうよ?」
 バッチリの笑顔で鏡に話しかける
「いいんじゃない?まぁ、昨日ほどじゃないけどー」
「どうせ一日ごとにおばさんになってますよーだ」
 鏡はいつも正直にものを言う。まるで学生の頃の女友達みたい。

 トーストを手早く焼く。
「ガチャン!焼けたぞ!どうだい今日の焼き加減は」
「別に、いつもと同じ……おいしいわよ」
 トースターは機嫌が悪いと煙を上げて怒り出す。

 台所でお湯を沸かす。
「ピィィィー……おーい、お湯が沸いたぞー」
 やかんがけたたましくわたしを呼びつける。
「あーい、もう……ピィピィピィピィもう少しましな音はでないのかね。あんたは」
 コーヒーを流し込む。インスタントコーヒーはまさに人類最大の発明品だ。

 テレビをつけて天気予報と今日の占いをチェック。
「可もなく不可もなく……かぁ」

 もしかしたら運命の出会いとか、積極的に攻めろとか、変化が現れるような占いがあれば、もしかしたら、また会えるかもと淡い期待をしていた自分に気づき、少し不機嫌になる。
「バッカみたい」

 なにも変わらない朝……少しくらい変わってくれればいいのに。化粧も服装もばっちり。鏡の前には昨日とまったく同じ自分がいた。その前も、その前も、そしてこれからも?
「ふー、いきますか!」

 別にふさいでなんかいない。わたしは何も変わっていないのだから、何を期待することがある。ただちょっと、素敵だなと思う人が現れて、そしていなくなっただけじゃない。こんな気持ちにゆれてしまうのは、あいつのせいなのか?

「あいつ、今頃どうしてるかなぁ」
 携帯電話のアドレスを眺める。あいつと電話をしたのは……あれは確かパソコンがうまく動かないとかで、あいつからかけてきたんだっけ

「まったく、ユーザーサポートじゃないんだからね」
「ゴメン、ゴメン、他に頼れる人いなくて……」
 電話口の向こうで、あいつが髪をかきむしりながら、それはそれは立派にはにかんでいる姿が目に浮かんだ。そして『他に頼れる人がいない』という言葉が、わたしの心を揺さぶった。

「もう!こんなことで夜中に電話かけてこないでよね」
 ちがう。そうじゃない。わたしは夜中でも明け方でもいいから、かけて欲しいと思っている。だけど、それって何?わたしは何を期待しているの?何を望んでいるの?

「あー、そうか、あれ以来か……」
 そうだった『あれ以来』電話で話していないし、『あれ以来』なんだ……眠れない夜を過ごしたのは。

 玄関を開けると外はひんやりとした空気に包まれていた。昨日と同じだけど、この空気は昨日ここにあった空気じゃない。

パン!パン!

 わたしは両手でほほを叩き、いつもの気合を入れた。高校時代陸上をやっていたわたしは、スタート前にいつもこうして集中してた。いつからか朝家を出るときは必ずこうやってほほを叩いている。家から駅まで10分。わたしの足取りはいつものようにしっかりと、軽やにいつものリズムを刻んでいる。スイッチが入ったわたしの頭の中は、今日のクライアントとの打ち合わせのことですでに頭がいっぱいになっていた。
「あのー、糸くずがついてますよ」
 近所のスーパーに買い物に来ていたわたしは、少しばかり高いキャベツとにらめっこをしていた。

「えっ?」
 不意に後ろから声をかけられて、ビックリしたのもそうだけど、その男性が買い物カゴを床においてジェスチャーで糸くずの着いている場所を示してくれたことに、一瞬反応が遅れてしまった。

「失礼」
 彼の大きな手がわたしのあたまについている茶色の糸をつまんでくれたときは、多分少女漫画の主人公が憧れの先輩に声をかけられてオドオドしているよううな様になっていたに違いない――思い出すだけでも顔が赤くなる。

「あー、あー、すいませ……あ、ありがとうございます」
 誤ることではないのに、あまりにも――わたしったらかなり無防備な状態だったから――突然だったので、つい「すいません」と言いかけて慌てて言い直した。彼は糸くずをわたしに見せて、「どうぞ」というような目でわたしを見つめた。慌ててそれを受け取るわたし。

「キャベツ、高いですよね」
 それはもう、わたしの体温を上げるのに十分な素敵な声で彼は言った。
「あー、そうですね。買うかどうか迷っちゃいますよね」
「しかし、迷ってもこれしかないから……」
 そういって彼はキャベツひとたまを軽々と片手で掴み、キャベツをひっくり返して芯を眺めた。
「うん、これにしよう。それじゃ」

 そういえば聴いた事がある。キャベツの選び方――芯が大きすぎるとダメなんだっけ……そうじゃない、糸くず!なんで糸くずなんか……
「あっ……あのときか」
 夕方に打ち合わせに行ったクライアントはアパレル関係の会社だった。わたしはwebデザイナーで、そこで扱っている商品をいろいろと見せてもらったのだが、たぶん、そのときに体のどこかに着いたのか……なんにしても会社からここに着くまでの1時間弱の間、わたしは頭に糸くずをつけたまま、歩いていたことになる。なんという失態……

「あれ?糸くずは……どこ?」
 わたしの手にはしっかりとその糸くずが握られていた。
「これって『運命の赤い糸』ってやつ?でも、わたしのは赤じゃなくて茶色なのね」

 わたしは一歩踏み出して、少しばかり高いキャベツを買うことにした。

 12月。スーパーには『年末セール』の文字が躍っている。どこかふさぎがちだったわたしの心は、少しだけ踊り出したような気がした。ただそのダンスは少しばかりぎこちない。

わたし……

ダンスはうまく踊れない

 部屋に着き、買ってきたものを冷蔵庫にしまう。
「あー、やだー、わたし、なにこんなにいっぱい買い込んでんのよー」
 冷蔵庫の中は一杯になっていた。ひときは目立つのはキャベツひとたま。
「誰が食べるのよー」
 わたしは男の人が食べる姿を見るのが好きだった。だから冷蔵庫の中にはすぐに炒めて食べられるような食材が入っていた。誰かとつきあっているときは……

「おい、どうした、あたらしい男でもできたか?」
 冷蔵庫が不敵にわたしに問いかける。
「もうすぐオレもお払い箱か?」

バターン!

 さっきまで浮かれていた自分が疎ましかった。
「なに考えてんだろうー、わたし」

 いったいどんなひとなんだろう?

 そう考えずにはいられなかった。その日寒がりのわたしが部屋の暖房を付け忘れていることに気付いたのは、シャワーから出たときだった。