文化系寄り道倶楽部 -13ページ目

文化系寄り道倶楽部

アラフォーで2児のパパであり、80年代の音楽をこよなく愛し、ガンプラを愛で、パソコンをいじくり倒し、台所を妻から奪い取り、キングの小説におびえ、究極超人あ~るで笑いころげ、夜な夜なUST配信をしている

久しぶりの恋愛小説のつづき


 眠れないと言っても、眠らないわけではない。深夜ラジオを聴いているうちに、なんだかこんなことで悩んでいる自分がばかばかしく思えてきた。

「普通にしてればいい。何もかわっちゃいない」

 朝になると、昨日のことはすっかりわすれたようにもやもやした気持ちが晴れていた。

「いってきまーす」
 いつもと変わらない朝。いつもと同じ顔がそこにある。授業が始まる前の朝練で軽く汗を流し、教室に入る。窓際が女子の列、栗山が後ろを向いて千恵と何やら話し込んでいる。
「おはよー」
 多少気が引けたが、思い切って声を掛ける。

「おはよー」
 栗山が明るく答える。
「おはよう。朝練だったんだ」
 千恵が振り返る。
「ああ」
 千恵は前に向き直り、栗山と話の続きを始めた。正直ほっとした。いつもと変わらない朝……いや、本当はどうなのか? 何か心に引っ掛かるものを感じながらも、1限目の授業の準備を始める。

 キンコンカンコーン

 僕の前の席が空いている。そこにチャイムとともに雄介が現れる。
「なんだよ。また寝坊かよ」
「うるせー、間に合ったからいいだろう」
「どうせまた、オールナイトの二部まで聴いてたんだろう?」
「あったりまえよ!」

 川村雄介は、中学を卒業し、高校、大学と僕が出会いと別れを繰り返してきた中で、唯一現在に至るまで付き合いがある男だ。腐れ縁とはまさに雄介のことである。
「録音したかよ」
「それがさぁ、途中で寝ちまって、半分だけよ」
「ちっ! またかよ」
「仕方がねーだろう。120分テープだって、片面60分しかないんだから」

「バッカみたい」
 そこに千恵が話に加わる。
「なんだよ」
「どうせエッチな番組録音しようとしてたんでしょう? やーねー、男の子って」
「俺は違うぞ。こいつが録音してくれっていうから」
「おっ、おい、なんだよそれ」
「俺なんかより小島の方が何倍もエッチなんだぜ」
「ふざけんな、雄介、バラすぞ! あ・の・こ・と」
「あー、ごめんなさい。わたしがわる~ございました」

「えー、なになに? エッチな本でも隠してるの?」
「おっ、栗山鋭い!」
「雄介やらしい」
「あっ、お前余計なこと言うなよ!」

 千恵が楽しそうに笑っている。改めてみると、いや、最初から分かっていることだ。千恵はかわいい。
「うん? どうかした?」
「あっ、いや、別に……」
「そう」
「うん、そう」

 いつもと変わらない日常を取り戻せるかと思った。でも、もう戻れなかった。僕はすっかり知恵を意識するようになってしまっていた。

 千恵はどうなんだろう?

 ふと僕は、我に返る。自分には心に決めた人がいるというのに……

 教室の後ろ側の出入口のそば、そこが彼女の席。授業中、ついつい彼女の方を見てしまう。

 時々彼女は大きなアクビをしている。背伸びをしたり、短い髪の毛をくしでとかしたり、顔を机に埋めて寝ているときもある。休み時間、気の合う女友達ととても乱暴な言葉遣いで大騒ぎしていることもある。
「あいつ、信じられないよ。すっごいむかつくー」

 制服の上にいつもジャージを着ている。袖の中に手をしまい込み、両手で頬杖を突く。時々目が合うと、怖い目でにらみつけ、そして笑う。小柄で、ボーイッシュ。男の子のような振る舞い。千恵に比べれば勉強もできない。というか嫌いなようだった。そのくせ負けず嫌いで、ごく身近な友達と点数を競ったりしていた。そんなときだけ結構いい点数を取っていたが、その分ほかの教科はぼろぼろだった。

 これと言って仲がいいわけでもなく、正直なところ、彼女のことはよくわからない。小学校は違うし、1年の時は別のクラスだった。彼女を知ったのはその1年の時のこと。

 当時インベーダーゲームをはじめビデオゲームが大流行していた。みんな点数を競いあい、ゲームセンターやゲーム機が置いてある駄菓子屋にたむろした。当時ゲームセンターは学校の規則では生徒だけで行ってはいけないことになっていた。もちろんそんなルールは、学校の中だけのことである。それでもやはり、ゲームセンターには本格的な不良と呼ばれる連中も多く集まる。そういうトラブルも確かにあった。だから、僕らは近所の模型店によく集まっていた。そこには僕が大好きな模型もあるし、ゲーム機が2台、ちょっとした駄菓子も置いてあった。

 オーバーオールにTシャツ。とても女のことは思えない格好で彼女は現れた。それも友達の自転車の後ろに立ちのりをしてだ。
「あれはだれだい?」
「あー、奥村、奥村恵子 1組だよ」
「なんで知ってるの?」
「塾が一緒なんだよ」
「へぇー」

「雄介! 何やってんの?」
「見りゃわかるだろう?」
「雄介おごれよ!」
「なんで俺がお前におごらなきゃいけないんだよ」
「いいじゃんか」
「よかねーよ」

 そのやり取りはとても女の子にはみえなかった。
「塾サボる気かよ。雄介」
「うるせーなぁ。ちゃんと行くよ」
「また遅刻か? 雄介」
「もう、勘弁してくれよ。 あーっ、やべぇ!」

 ゲームの画面にはゲームオーバーの文字

「きゃはははは! じゃーねー」
「待て―! この野郎!」

 なんて、かわいい顔で笑うんだろう。僕はその笑顔にすっかり心を奪われてしまった。
「あんにゃろう! 絶対女じゃねーよ!」
 雄介は財布を取り出し、中を見るが、どうやらもう、ゲームをするお金がないようだった。
「ちぇっ! 帰るか」

 それからちょくちょく、その店で彼女を見かけた。雄介をいじることが彼女は楽しいようだった。僕も一緒になって雄介をいじった。少しずつ彼女と会話をする機会が増えたが、クラスが違うということは、大きな隔たりとなっていた。それが二年になって一緒のクラスになれた。僕は神に感謝し、仏に感謝し、雄介に感謝した。


やっぱり続くw


ちょっとした恋愛小説




 思春期と言えば、男同士で集まると、女子の話で盛り上がり、誰が好き、どのこがかわいいなどとかわいらしい会話に始まり、雑誌やテレビ、ラジオで仕入れた、思わずズボンのふくらみを隠したくなるようなエッチな話題に興じる。

 モテる男と言うのは、そういう席には顔を出さない。

 彼は知っている。現実、好きだ、嫌いだと、恋愛の世界に足を突っ込めば、それはそれで楽しいことだけではない。浮ついたことだけでは収まらない。

 なにガキみたいなこと言っているのだ

 そんな目でこちらを見ている。

 そう。僕はモテない側に属している。女の子との接し方は、友達以上恋人未満というなんとも便利で窮屈な表現の範囲でしか付き合ったことがない。恋の相談は受けたことはあるが、告白されたことはない。チョコレートをもらったことはあるが、それがオンリーワンであったことはない。

 いい人 優しい人 気さくな人

 そういわれて久しい。

 いたずらに女の子の髪の毛を引っ張ってみたり、背中を突っついたりしたことはあっても、手を握ったり、握り返されたりしたことはない。

 女子との会話は楽しい。

 面白い人 楽しい人 明るい人

 もちろん、暗い、キモい、つまらないと言われるよりはいいが、そんなことを思っていても、面等向かって言う女子などいやしない。思っていても、男子の前では口にしない。それは、僕たちも同じことだ。

「ねぇ、どうしてバスパンで練習しないの?」
「着替えるの、面倒くさい。ジャージの方がこけても痛くないし」

 バスケ部に所属していた僕は、練習の時めったにバスパンを履かなかった。着替えるのが面倒とはバスパンのことではなく、ソックスのことである。バスパンを履けばバッソクに履き替えないと格好が悪い。それに――

「補欠の俺が、あいつらとおんなじ格好してやったって、急にうまくなるわけじゃないし」

 柴崎千恵は、同じクラスで隣の席。軟式テニス部に所属しているクラスの人気者である。学力もトップクラスで、テニスもそこそこうまい。この『そこそこ』というのは、学内ではそれなりに強かったらしいのだが、他校との試合で勝ったという話を聞いたことがない。自慢ではないが、それはテニス部に限らず、どの部活も似たり寄ったりだった。

「バスパンの方がいいと思うんだけどなぁ」
「そうかなぁ」
「そうよ」

 西山中学の放課後は、活気に満ちているというよりは静かな時間が流れている。おそらくは特別じゃない。どこにでもある風景なのだと思う。部活が強い中学と言うのは、やはり雰囲気が違う。練習試合に何度かほかの学校を見たことがあるが、強い学校と言うのは、やはりどこか違っていた。凛としている。

「練習いいのか?」
「だってほら、あれ」
 千恵が視線を送った先――校庭の校舎側にテニス用のネットが二つ張ってあり、一つは別のクラスの女子がダブルスの練習をしている。もう一つのコートは誰も使っていない。そこにいるべき千恵は今、体育館の前で僕と話し込んでいる。シングルの練習相手の栗山直子の姿が見えない。よく見ると、校舎への渡り廊下で誰かと話し込んでいる。

「あぁ、そういうこと」
「そういうこと」
 栗山も同じクラス。そして僕の席の斜め前、つまり千恵の前に座っている。話し込んでいる誰かというのは隣のクラスの竹内博。二人が最近付き合いだしたという話は聞いていた。しかし、その二人が話し込んでいるのを見るのは初めてだった。

「ずいぶん前から付き合っていたのよ。あの二人」
「へぇ、全然気づかなかったなぁ」
「私も」
「そういうものなのか?」
「そういうものよ。敵をだますにはまず、味方からって」
「誰が敵で、誰が味方なんだ」
「どうかしらね。それは私にも分からないわ」
「変なの」
「付き合っていることがバレると、いろいろと面倒みたいよ」
「ふーん。俺にはわからん」
「私にもわかんない」

 ピー!

 体育館のコートから笛の音が聞こえる。休憩時間は終わりだ。

「さて、もうひと踏ん張りしますか」
「バスパンの方がいいよ」
「やだ」
「いいってば」
「やだね」

 練習を再開するも、どうにも外が気になった。千恵はしばらくバスケ部の練習を見ていたようだが、いつの間にか体育館の前から姿を消していた。たぶん、二人の長話が終わったのだろう。

「ごめん、汗かいた。ちょっと着替えてくるわ」
 僕は更衣室に入り、スポーツバッグの中からバスパンとバッソクを取り出した。

「洗濯物増やすの、嫌なんだよなぁ」
 その日はいつになく、体の切れがよかった。レギュラーのディフェンスをかわし、見事なジャンプシュートを決めた。
「今日は気合入ってるじゃん」
「別に」
「珍しくバスパン履いているし」
「たまにはね」

 キーンコーンカーンコーン……

 練習が終わり、更衣室で着替えをすませ、下駄箱で外履に履き替える。そこに知恵が通りかかった。
「お疲れー」
「あー、今帰りか」
「やっぱ、バスパンのほうがいいでしょう?」
「えっ?」
「動き、よかったじゃん」
「そうかなぁ」
「そうよ」

 千恵の後ろから栗山が現れた。
「ごめん、帰りにコンビニ寄る約束だったけど、行けなくなっちゃった」
「いいなぁ、これから竹内君とデート?」
「そんなんじゃないって、なんか友達のことで相談があるって、加藤君ってほら、サッカー部の」
「加藤隆二だっけ? たしかサチコの彼氏だよね」
「なんだかうまくいってないらしくてさぁ」
「なるほど、そういうことか」
「そういうこと。ごめん、この埋め合わせはいつか――」
「いつか形のあるものでね」
「う、うん、わかった。形のあるもので、じゃーねー、お二人さん」

 栗山はときどき、そういうからかいをする。
「そんなんじゃねーぞ、バーカ」
「もう、直子ったら!」

 栗山直子は、見事なアッカンベーをしながら、校門に向かって走って行った。校門には竹内らしき影があるが、暗くてよくわからない。

 そしてその場に、妙な気まずさが残った。
「かっ、帰ろうっと」

 二人の帰る方向は同じである。僕の方がワンブロック、学校に近い。僕はその場を逃げるように駆け出そうとした。

 その時だった。

 僕の左手を、温かく、柔らかく、小さな知恵の手が掴んだ。

 心臓が止まった。止まったかと思った。

「待ちなさいよ」

「えっ、えっ、何?」
「今度から、バスパンちゃんと履きなさいよ」
「な、なんで……」
「その方が……」

 僕は混乱した。
「やだね。もう履かない」
「バカ!」
「帰る」

 僕は千恵の手を振りほどいて――いや、その前に離していたかもしれないし、今となっては解らない――校門までダッシュした。いや、家まで走り続けたかもしれない。玄関を開け、部屋に入り、制服を脱いで、洗濯物を出した。親の顔を見るのが何となく嫌で、部屋にこもった。

「何やってんだよ、俺」
 完全に取り乱している。

 謝らなきゃいけない。

 いや、なんて謝ればいい。

 何を謝ればいい。

「バカだなぁ。バカだ、バカだ、バカだ」
 左手に知恵の手の感触が残っている。女の子の手はこんなにもやわらかかったのか。まずそれに驚いた。

 こんなところを誰かに見られでもしたらすぐに噂が立つ。

 それが怖かった。

「なに、ビビってんだよ。俺」
 千恵のことは好きだった。でもそれは恋や憧れではなく、一緒にいる仲間として、いつも馬鹿話やふざけ合ったりする仲間として好きだというだけで、それ以上の感情はなかった。

 いや、気づいていなかったのか。

 人を好きになることはあっても、自分が好かれるなんてことは想像できなかった。どうしていいかわからなかった。そう思うと、知恵のこれまでの行動のなかで、自分に好意を向けていると思われることがいくつか浮かんできた。

「でも、俺は――」
 自分にはひそかに恋焦がれている子がいた。今はそのことが、とんでもなく罪なように感じた。

 僕は左手をしばらく眺め、眠れない夜を過ごした。


おわり・・・またはつづく

エッセイと言うか
日常、僕がどんな視線で世の中を見てるのかっていう、そんなお話です



 その朝、玄関を開けると雨が降っていた。地面はぬれ、水たまりに小さな波紋が浮き上がる。

「あれ? 雨だ」
 雨は降っているが外は明るい。厚い雲に覆われた憂鬱な雨ではない。
「すぐにやむだろうか?」
 しかし、そのまま出かけようとは思えない雨――今は2月。東京が一番寒い時期である。

 子供たちが出かけた後の玄関はがらんとしている。8時には近所の子供たちが迎えに来る。私が仕事に出かけるのは9時を回ってからだ。玄関には私の靴と妻の来るが置いてある。妻は私のさらに30分後に家を出る。

 傘置きはない。

 下駄箱に並べて置いてある収納ケース(電池や工具、玄関マットの替えやガムテープがしまってある)にビニール傘が数本、私が普段使っているコンビニで買った1000円ほどの傘がひっかけてある。私はビニール傘を手にした。

「こんな日は、傘を忘れそうだからな」

 風はない。雨はまっすぐ上から下に落ちてくる。非常に小さな粒で、遠くの空を見ると雨が降っているように見えない。足元の水たまりを見なければ、雨が降っているとは気づかないほどである。しかし、ごく近くに焦点を合わせると、雨は確かに降っている。傘なしでは、いささか心もとないと思えるほど、しっかりと雨は降っていた。

 少し錆が目立つようになった玄関のドアは、それらしい音を立てて「ギーィー、バタン」と閉まる。いつも油をささなきゃと思うのだが、家に帰るころにはすっかり忘れてしまう。不思議と夜は気にならないのだ。

「いってきます」
 それは決して妻に向けて言う言葉ではない。私の家、私の住家を出るときのまじないみたいなものだ。『いってきます』と『ただいま』は対になる呪文のようなもので、どちらを忘れてもいけない。そんなふうに私は思って日々を生きている。

 一週間のうち、3日は決まった時間に家を出る。それは不定期に仕事の都合で決まる。事務所までは歩いて15分ほどのところである。昔から通勤列車は好きではなかった。だから、いつも歩いて通えるところに引っ越している。

 借家暮らしである。

 住宅街から駅前を通りぬけ、オフィス街に抜ける。メインストリートを歩いても裏道を歩いても大差はない。しかし、なるべく車の通り、自転車の通りの少ないところ、そして信号を気にしないで道を渡れるところを通る。行と帰りでは道を変える。天気によっても道を変える。それは些細なこだわり、或いは習慣なのか、習性なのか、人には説明しづらい。

 建物を出て最初の十字路、ここは自転車がすごい勢いで急に曲がってきたりする。雨の日は時に危ない。傘をさしながら自転車を乗るというのは、私にはどうにも信じられないのだが、そういう人は、おそらく『運のいい人たち』なのだろう。事故に会わない、いや、事故を起こさないのが不思議である。

 私は十字路をまっすぐに……いや、ここは正確にはT路地であることを私もついつい失念してしまう。まっすぐいくとそこはマンションの駐車場を抜けていくことになる。私有地であり、元来他人が通行していい場所ではない。が、しかし、私はここを通りたいのだ。ここを通り抜け、左に曲がって横断歩道を渡る。しかしできれば横断歩道の手前の道路を斜めに横断したい。ほんのわずかなショートカットだが、私はそれがしたいのだ。

 右、左と目くばせをする。右からは車が、左からは自転車が飛び込んでくることが多い。
「大丈夫、オールクリア……」

 右側から人が歩いてくる。いや、別に右側だけではない。後ろからも左からも人は歩いてくる。傘をさし、身をかがめながら歩いている。寒いのだから当然である。しかし、右から来た人――その女性は傘をさしていなかった。傘をささず、上を向き加減で歩いている。決して上は見ていないが、皆が下向き加減だから、まっすぐ歩く彼女は上向き加減に見えてしまう。

「彼女はなんで、傘を持っていないのだろう?」
 そう思う間に、私と彼女は背中で交差し、彼女はまっすぐ歩き、私もまっすぐ歩いた。

 20代。おそらく25から30の間。帽子をかぶっている。カーキ色のふわっとした感じの帽子だ。私はそれをなんと呼ぶのか知らない。上着はコートと呼んでいいのか、ジャケットと呼んでいいのか、私にはわからない。全体的な印象は落ち着いた色遣いで、かわいらしくもあり、行動的な感じでもある。

 雨が降っている。

 決して無視できるような雨ではない。遠くの空を見れば、雨が降っていることを気づかないような、そんな空である。しかし、ビニール傘に目をやれば、雨粒はしっかりと音を立て、しずくとなってぽたぽたと落ちてくる。

「彼女は、なぜ、傘をさしていないのだろう」

 彼女はおそらく駅に向かっているのだろう。私は当初の予定通り、まっすぐ駐車場を抜けて、左斜めに横断歩道の手前で道路を渡りきった。傘を持たない彼女は私にやや遅れて、その横断歩道に差し掛かっていた。ここを渡り、左にまっすぐ行けば駅である。

「家から出てきたのなら、傘を持って出るだろう。友達の家から朝帰りでも、やはり、そうだろう。傘くらい貸してくれるだろう」
 私はぶつぶつと分析を始めた。

「それに、傘がないのなら、横断歩道の手前のコンビニで買えばいい。それもしないのか……」
 下衆な勘繰りを始める。

「男か……。男の部屋から朝帰り。しかし、ビニール傘の一本や二本あるだろうに」
 高架線を超え、オフィス街に入る。

「徹夜明けの仕事帰り、恋人の部屋からの帰り、女子会の帰り、どれもしっくりこないなぁ」
 いつもの自動販売機で缶コーヒーを買う。100円だ。しかし、小銭を持っていないときは立ち寄らない。

「彼女は、なぜ、傘を持って出なかったのか」
 郵便局の前には自転車が何台も止めてある。今日は10日か。

「彼女は……きっと、雨が好きなのか」
 私にはわからない。彼女の服装は『雨に濡れてもいい』ようにはみえなかった。

「いや、彼女はきっと、傘がきらいなのか」
 公園を突っ切る。晴れた日なら広場を斜めに通り抜けるが、雨の日には靴が汚れる。舗装された道を使うと、ショートカットにはならないが、それでも車や自転車を気にしなくていい。

「いや、彼女はもしかしたら、とても気に入っている傘があるのかもしれないな」
 片側3車線のメインストリートを渡り、事務所の前に着く。雨は激しくもならず、弱くもならず、風もない。

「このくらいなら、駅まで歩いても対して濡れないか。大きめの帽子だったから、髪の毛が濡れることもないだろう」
 エレベーターの前でビニール傘をたたみ、雨水を振り払う。

「でも、やっぱり結構な雨だよなぁ」
 エレベーターの扉が開く。タバコのにおいがする。傘の先から雨水が滴り、小さな水たまりができる。

「彼女は、なぜ、傘を持たず、傘をささず、雨に濡れ、そしてどこへ行ったのだろうか」
 その日、雨は昼過ぎには上がった。

思うに・・・
言葉を駆使して何かを伝えようとする人は 詐欺師か妄想家のどちらかで
その間を行ったり来たりするが物書きではないだろうか?

以前勤めていた会社の後輩に とても素直な奴がいて、僕の言うことを100%信じようとする

だから、僕は さんざん説教やら訓示を述べたあとに
「いいか! 今俺が言ったことの半分は嘘だからな」
と付け加えた

それがはたして彼の役に立ったかどうかはわからないけれども
僕が楽になったのは確かだ

ポップスターが歌う愛の詩は 究極的には嘘だ
嘘とわかっているから 楽しく聞ける
それが事実と真実を伴う真理だとしたら こんなうっとうしいものはない

と僕は思っている

政治家が語る理想は 究極的には嘘だ
嘘だとわかっているから・・・なんだっけ?
どちらにしても なんにしても うっとうしい

あたりまえだ
そもそも愛はうっとうしいものだし 政治もうっとうしいものだ
気持ちのいいものだったらみんなこぞって愛し合うし 政治もする
だから人は争うし、だから人は政治を他人にまかせる

愛し合っているかい? とステージから言われると ぞっとするし
清き一票を って 壇上から言われると ぞっとする

真実が気持ちいいものだなんて だれも思っていない
だから言葉を使って真実を求める言葉を紡ぎ、真実を隠す

答えはいつだって いたってシンプルなんだ
言葉はいつも 真実から一番遠いところにある
ざわついたり、ざらついたり、ひっかかったり、こびりついたり

自分(=内)と世の中(=外)との折り合いに摩擦があったり抵抗があったりしてうまくいかないことがある・・・というか うまくいかない方が多いのか?



そう感じたり、思ったり、考えたりすることが多いのか

ともかく、内側からの景色しか見えないわけだから、外側からみれば、取るに足らないことなのかもしれないし、或いは 内側からよりも 嫌悪と憎悪の対象としてみられているのかもしれない

おはようございます

内側としては『いつでもこのゲームを降りてやる。またやり直せばいい』というマインドが重要であるのかもしれず、しかし、内側(=自分)も誰かにとっての外側(=世の中)なのである

自分が引っ掛かることは他人も引っ掛かる
他人が摩擦に感じていることは自分も摩擦に感じる

この表と裏は 表裏一体ではなく 表裏別々 ってところが面白い
関係性は表と裏でも 実態は個別の存在であるわけだから

私はあなたではない

あなたは私ではない

だが私はあなたを知っている

そしてあなたは私を知っている

知ることができれば解り合うこともできる

解り合うことができても、私は私 あなたはあなた

諦めたら、このゲームから降りたら ついに解り合えないあなた

でも、そこに時間という点と点、線と線、面と面 の次の軸=次元で物事を考えたとき

はじめて『人は解り合える』

と言い切れるのかもしれない

明日のあなたと解り合えるために 今、なにをするべきか
たまには、ゆっくりと考えたいものだ