「メイ・ディセンバー ゆれる真実」
ジュリアン・ムーアとナタリー・ポートマンという二大女優の共演にもかかわらず、日本ではほとんど話題にならずに公開がほぼ終了してしまった(これからの地域もあるけれど)。
というのもこの映画の元ネタになった事件が、全米では大スキャンダルだったのに日本ではあまり報道されなかったから、かもしれない。同時期に起きた「ジョンベネちゃん殺人事件」の方が日本ではずっと有名だ。
メイ・ディセンバーとは年齢の離れたカップルのことを言う。
36歳の既婚女性が13歳の少年と恋に落ちて関係を持ち、しかしそれは犯罪(児童強姦罪)なので女性は逮捕される。服役中に彼女は彼の子を獄中出産し、出所後に結婚。
というスキャンダラスな出来事の20年後。
この物語を映画化するということで、ヒロインを演じる女優役のエリザベス(ナタリー・ポートマン)が、モデルになった実際の女性グレイシー(ジュリアン・ムーア)に取材を兼ねて訪ねる、という設定だ。
事実をそのまま映画化しないでひねりを加えているところが、トッド・ヘインズ監督らしい。特にナタリー・ポートマンは難しい役どころだが、取材していくうちにどんどんのめり込んで、グレイシーと一体化しようとする様子が描かれている。
鏡のシーンなど、演技者と当事者の駆け引きめいた場面は非常にスリリングだった。
グレイシーと23歳年下の夫ジョーは、年齢差以外は普通の夫婦に見えなくもないが、やはりどこかいびつな関係を匂わせていた。
「私のこと誘惑したくせに」だなんて、36歳が13歳の少年に本気でそんなことを思ったのか。
グレイシーの精神的な不安定さや幼児性は以前からなのか、必死で耐えようとしている年下のジョーがあわれにも感じる。あの頃は純粋な愛だと信じて(信じこまされて)いたことが、時が経って振り返ると少し違うのではないかと、ジョーは疑問に感じ始めたのかもしれない。
しかしシリアスになりすぎず、この監督らしいシニカルさ、乾いたユーモアがそこここに漂う作品だった。
ところで実際の二人は、映画の設定のようにペットショップのバイトで知り合ったのではなく、36歳の女性教師と13歳の教え子だ。教師は既婚ですでに4人の子どもがいたというから驚きだ。もちろんどんな立場であっても愛は生まれるだろうが、ろくに社会経験もない13歳と「合意の上」と主張するのはやはり無理がある。
彼女の出所後に結婚し、さらに子どもももうけた二人だが結婚13年で離婚。
その2年後に彼女はガンにより58歳で亡くなっている。