「12日の殺人」

たくさん映画を観てきてよかったな、と感じるのはこういう作品に出会った時だ。
自分にとって響く(好みの)映画かどうかは、長年観てきて一種のカンが働くので、最近では大ハズレすることはほとんどなくなった。
しかしこの作品は予想以上だった。単にミステリー映画が観たかったのだが、私の想像をずっと超えていた。
これはフランスで実際にあった未解決殺人事件が基になっている。生きたままガソリンをかけられ火をつけられて焼死した女子大生の死体が発見される。
昇進したばかりの刑事ヨアンとベテラン刑事が担当となり、捜査が始まるのだが、事件は意外なほど難航する。
この映画か面白いのは、事件の謎解きがメインではないこと。なぜなら最初から未解決事件とわかっているからだ。
重きを置いているのは捜査する側の心情だ。刑事の思い込みや、作り上げたストーリーによる犯人の決めつけは問題ありとわかっていても、実際の捜査ではそうなってしまうのだろう。自白を強要する、というのもわからなくはない(だからこそ冤罪が起きるのだが)。
被害者の女子大生が意外に交友関係が広く、性的に奔放だったことも次第に明らかになっていく。
容疑者は次々にあがるがどれもシロで、解決の糸口はつかめず刑事たちは焦りを見せ始める。ベテラン刑事のマルソーは家庭内に問題を抱えており、ヨアンも次第にこの事件に蝕まれていく。
袋工事を堂々めぐりするような閉塞感と緊張感に満ちて、観ているこちらも「早く何とかして」、と叫びたくなる。
事件の舞台が都会ではなく山あいの町ということもあって、独特の空気感があり静寂の中でのスリリングさに目が離せない展開となった。
映画の終盤で新入りの女性刑事や女性の判事が登場する。やはりフランスでも警察組織は男社会のようだ。

新しい視点で事件を洗い直し、何かしら手がかりがつかめるかもしれない、という淡い期待がわいてくるラストではあったが…