「哀れなるものたち」

自殺した若い女性ベラ(エマ・ストーン)は、ウィレム・デフォー演じる外科医の実験台として胎児の脳を移植され、生き返る。
身体はすでに成人女性なのに脳は胎児、だがベラは驚異的な勢いで成長していく。最初は歩くのもおぼつかなかなくてほぼ赤ちゃん状態だったのに、すぐに言葉を覚え大人同様の振る舞いができるようになった。
それだけでは満足できなくなったベラは、この目で世界を見たいと思うようになる。マッドサイエンティストの元を離れ、放蕩者の弁護士(マーク・ラファロ)とともに大陸横断の旅に出る。
実に途方もないストーリーなのだが、原作ものとはいえかなりの力作で、この監督の前作「女王陛下のお気に入り」以上に独自な作風。
特にプロデューサーも兼ねているエマ・ストーンの女優魂には驚かされた。まさに体当たり演技(古い表現だがなぜか男性俳優にはあまり使われない)。
ベラが旅を始める理由のひとつが、性的な意味での「解放」であり、肉体的にも見聞を広げたくなったわけだ。娼館に身を置いてまで体験する姿勢には感心というより呆れもするが、ベラの貪欲さには果てがない。性描写は大胆で18禁なのも納得。
原作小説の発表は1992年だそうだが、今映画化したのはとても意味が大きかったように感じる。フェミニズム的認識が高まっている現在だから響くこともある。
お話が奇想天外、SFチックな冒険譚であるからこそ、映画全体のヴィジュアルも目を惹く。
クラシカルでゴシック風かと思いきや、非常にモダンな部分もありそれが渾然一体となっている。なのに少しの不自然さもない。衣装や美術、画面の色彩まで工夫が行き届いていて、それだけでも楽しい。
ベラの衣装は、デコラティブなヴィクトリア朝と思わせて、下を見るとシンプルなミニスカートだったりと、そのちぐはぐさがたまらない。楽しませどころが満載の映画だ。
ラストも実に痛快で、変わったテイストの作品だが私は非常に気に入った。