「月」
辺見庸の原作「月」の映画化だが、そもそもこの小説は相模原の障害者施設殺傷事件を基にしている。そう、あの救いようのない凄惨な事件のことだ。
だからこの映画がどういう展開になるか、観る側はおよそ見当がつくわけだが、それでもやはりそれなりの覚悟は必要。超問題作であることに変わりはない。
主人公の洋子(宮沢りえ)は、作家として成功を収めたがスランプに陥って書けなくなったのを機に、重度障害者施設で働き始める。そこで介護現場の現実に直面する。
作家志望の陽子や、親切な青年さとくんらと働くのだが、洋子は自分と同じ生年月日の寝たきりの入所者を世話するようになる…
心やさしいさとくんが、いつしか優生思想にとりつかれるようになり狂い始める。彼には正義感も使命感もあったはずなのに、「心がない入所者はむしろ安楽死させた方が世のため、本人のためでもある」と信じるようになる。
磯村勇斗は、よくこの役を引き受けたなと感心したのだが、彼でなければただのよくある極悪人にしかならなかったかもしれない。犯行に至るプロセスはスリリングだった。
彼の考え方も一理あるとは決して思わないが、それでも様々な問題提起がなされ考えさせられた。
事件とは別に、洋子の夫婦問題にも絡んでくるところは凄惨な物語に深みをもたせた。夫役のオダギリ・ジョーのキャラに人間くささを感じてしまう。