うちのホテルの浴場玄関は、

千本格子の引き戸に、たたきは洗い出しの

純和風。


入って両側に下駄箱があり、

向かって左側は鍵付きボックス、

右は鍵なしの棚。


上がり框の前にすのこが敷いてあり、

お客様はそこで館内スリッパや靴を脱いで

各々好きなところにしまい、脱衣場へと向

かう。


そして服を脱ぎ、全裸で浴場へ…


日本人なら子供でも自然にやってのける

一連の動作。


これが外国人には難しい。

日本人は、玄関をくぐった一瞬に、

「空気を読んで」使いこなしているのだ。


今朝、玄関先の掃除をしていると、

やってきたアジア系外国人2名のお客さま。


玄関に入ってすぐ立ち止まり、少し困惑した

表情であちらこちらに目をやってから

館内スリッパのまま、すのこに上がった。


そしてスリッパを脱ぎ、下駄箱に入れたの

だった。


日本の文化をちょっと知っていて、

履き物脱ぐのはなんとなく分かっても


この中途半端な高さの、隙間を空けて

板きれを打ち付けたようなモノが

置いてあるのはどういうこと???


分からんよね。


しかもうちのホテルの上がり框は、

元々そんなに段差があるわけではない

から尚更。


しかしこんなのはまだ上等で、

普通に館内スリッパのまま脱衣場に

入る外国人は珍しくない。


中にはわざわざ、他の客のスリッパや、

「ご自由にお使い下さい」の体で置いてある

スリッパに履き替えて上がりこんでいる人も。


これなんか、逆にすごく空気を読もうと

頑張ったのが伝わる。


そらそうだろう。

なんせ部屋は洋室で土足OK、

館内スリッパに履き替えてるんだから

これでOKって思いますよね。


室内履きだもの。


でも日本人は、一瞬の躊躇もなく

すのこの前で脱いでいる。

脱衣場に館内スリッパで上がり込むどころ

か、すのこに上がることももない。


ここで勤めだしてから、行く先々で

「玄関の作りと履き物の着脱の関係」、

特にスリッパの使い方が気になって

観察しているのだが、


様々な場所の玄関で、和洋折衷、

バリアフリー等々、つくりが多様化している

現代でも、

日本人はそう間違えてはいない。

(勘違いしやすいところには注意書きが

あったり、自ら確認したりする)


玄関くぐってのっけから空気読まにゃ入室すら

出来ないとか、

その場その場で使い分けるスリッパの曖昧な

存在感とか、面倒くさいけれど日本的で

文化なのだなと思う。


入職して1ヶ月が過ぎ、

脱衣場でのスリッパ姿を見ても、驚きもせず

面白がることも無くなったが、


先日、浴槽のすぐ横にきちんと並べた

スリッパを見た時は目を疑った。


見ると、金髪の若い女性が、有馬特有の金泉に

のんびりと浸かっている。


声を掛けると「Sorry!」とバツの悪そうな

笑顔で応対してくれたが、

英語が出来ない私は、このスリッパを浴場外に

持って行くことを伝えるのがやっとだった。


じゃあ、何なんだろうこのスリッパ???

と不思議だったろうな。


さすがに浴場内は無いなーと先輩に告げたら、

珍事件ではない程度にはある事らしい。