とも君と桜 | まじょねこ日記

まじょねこ日記

魔女の大切な仲間の猫たちの日常をみてください



展覧会最終日の午前に とも君がひとりでやって来た


顔色も悪く、とても元気がない


どうしたの? と聞くと


「桜が・・」 とか細い声


4月から中学生になる とも君は

テニスが大好きなとっても明るい・・ はずの男子だ


自然が大好き、生きもの大好き

よく小動物や昆虫の絵を描いている



とも君の家と魔女の家は近くて

私たちの家がある丘のてっぺんは、某有名電機メーカーの社員寮だった


まだこのあたりにまじょ家しかなかった頃も、その寮は既にあって

3~4階建ての団地のような大きな建物が丘のてっぺんに4棟ほど並んでいた


その敷地の周囲は、数十本もの大きな桜の木に囲まれていて

毎年この時期には見事な桜花を見せてくれる


そうして花が散る頃には

あたり一面は見事な花吹雪

その下に立つと、まるで別世界に迷い込んだよう

それはあまりに美しい世界だった


その後、道にはピンクの絨毯が敷かれ

夢のような風景が広がる



初めは一軒だけだったまじょ家周辺に家が建ち始め

終いにはどこを見渡しても家だらけになった


数年前、件の電機メーカーが社員寮を売り払い

建物が壊され

そこは広大な空き地になった


それでもその周囲に残された桜の木々は

毎年美しい花を咲かせて私たちを喜ばせてくれた



そこに、39棟の家が建つことが今年に入って決まった


そうして現在、その周囲には鉄柵が施され、中には作業用のプレハブが建ち、作業員達の姿が日に日に多くなっている



まじょ家から直接見えないが

とも君の家の目の前、少し視線をあげると、そこには桜の大木が並んでいるのだ


卒業式から後、とも君は毎日家にいて

悲しい工事の成り行きを見詰めることになる




朝、窓を開けると先ず桜が目に入るだよ

ぼくが0歳の時に僕んちはここに引っ越して来たんだ


それから僕は毎日この桜を見てきた



住宅建設の説明会に行ったお母さんが

あの桜は全部切られるって言った

みんな切られちゃうって


ぼくが赤ちゃんの頃から見てきた桜がなくなっちゃう・・

ぼくはひどく心が暗くなった



あそこには思い出がいっぱいあって


石がきをよじ登って(雛壇の住宅地なので) 空き地に入り

お兄ちゃんや、友だちたちと桜の下でおやつを食べたりジュースを飲んで花見をしたよ

すごく楽しかった


花びらが散り始めると、道の花びらをいっぱい抱えてまた散らした

花びらが風に飛ばされて、辺り一面がピンクに染まって、まるで夢みたいだった



去年、僕んちの方に伸びた枝が切り落とされた

台風とかで枝か折れて落ちてきたら危険だからって

それで桜はとても変な形になった

それはすごくかわいそうな形だった


一週間前・・

一部の枝が切り落とされた

枝にはつぼみがいっぱいついてた


つぼみをつけたまま、枝が落とされたんだ


そして3日前

何本かの桜が一気に切られた

次の日には花が咲き始めるところだったのに


今日は満開になるはずだったのに



どうして・・

せめてどうして5日くらい待ってあげないの

5日くらい待ってあげてもいいじゃん


花を咲かすために一生懸命冬を越して

やっとやって来た春なのに



どうして花を咲かせてあげないの!


桜たちがかわいそうだよ!


ひどいよ!



桜が・・ 

かわいそうだよ・・


ぼくは卒業式から毎日家にいて

毎日が辛くて・・

悲しくて・・


人は、おとなは、相手の気持ちを考えないで何でもやるんだ

お金のためなら何でもやるんだ


待ってあげてもよかったじゃん・・

せめて花が咲くまで・・




とも君には切り倒される桜の木の悲鳴が聞こえたに違いない


私たちは悲しい心を共有し

とも君は沈んだ心のまま家に戻って行った


あと数日待ってやって欲しかった

せめて散るまで、待ってやって欲しかった


とも君同様

魔女も子供の頃から見続けてきた桜並木

ずっとそこに在るのが当たり前の思っていた桜たち


私たちは彼らにどうやってさよならを言えばいいのか・・




       



                とも君はきっと

               大人になって就職しても

               心のある仕事をする人になる