キリット君のお話 Ⅱ | まじょねこ日記

まじょねこ日記

魔女の大切な仲間の猫たちの日常をみてください


深夜に公園から《キリット君》を連れて帰り

その翌朝一番で動物病院に向かった


朝になって気づいたのだけれど

《キリット君》の右前足の親指は爪はおろか肉球ごとえぐり取れていて、恐ろしく腫れ上がっていた

そのせいでキャリーバッグに敷いていたタオルのそこかしこに血が付着した



魔女家かかりつけの動物病院はちょっと遠く

パイパスを飛ばしながら、私は時折助手席に置かれた《キリット君》の入っているキャリーバッグを覗く


本来なら嫌がって鳴いたり、バッグを引っ掻いたりするはずだが

《キリット君》は横になったまま鳴き声ひとつあげなかった


もう声を出す元気もないのだ


そして《キリット君》はキャリーバッのグ中で横になったままおしっこをした



病院に着いてすぐに診察室に通された


先生は、《キリット君》を診るなり不機嫌になった

猫好きなこの人は、状態の悪すぎる猫を診ると途端にご機嫌が悪くなるのが常だ


それは私も同じで

こういう時、私たちは非常に険悪な状態に陥る


自分たちの力の限界を見せ付けられるからだ

更に自分たちと同じ人間にやられた可能性が高いとなると、お互い苛々は募る一方だ



先生 「極めて不健康な状態!」


魔女 「だから来たんですよ!」


先生 「この子をこれからどうするつもりですか!」


魔女 「今後が大変なら私の家族にしますから!」


先生 「で?!」


魔女 「怪我も病気も治して少しでも楽にしてやりたい! (に決まってんだろう!) 」


先生 「治療はどこまでが希望ですか!」


魔女 「すべて!」


先生 「検査しなきゃ細かいことまではわからないが黄疸がハンパない!」


魔女 「エイズ検査も、白血病検査も、血液検査も何でもしてっ!」


先生 「いいんですね!」 (魔女家の家計の大変さを知っている)


魔女 「いいです、全部やってください!」


先生 「わかりましたっ!」



腕の良い先生は細くなった《キリット君》の血管から慎重に血液を取り

もの凄い手早さで様々な検査を進め

最後に残ったのが数分待たなければならないエイズ検査の結果だった


《キリット君》の血液は驚くほど薄く

採血の時に見たら、そのオレンジ色の液体から向こうが透けて見えるほどだった



どんな病気でも、どんな酷い怪我であっても私が世話をする

そう決めて連れて来たんだ



あの深い怪我から感染症を発症しているかも知れない

傷が元で食事が出来なくなり、ここまで悲惨な状態になったと思われる


ある特殊な人間が行った劣悪な行為からこうなったのだとしたら

例えそれが私やここの読者さんたちとは全く異なった種類の者であれ、やはり人間がやったことの責任

その責任を魔女が代わりに取ってやろうじゃないか



何でもいい何かにすがる気持ちで過ごした数分


検査の結果、エイズも白血病も陰性だった


それが唯一の救いのようにへたり込む私に向かって先生は言う



先生 「安心なんてできないよ! 恐ろしく重症の黄疸に、血液は通常の猫の半分以下の薄さしかないんだから!」


魔女 「肝臓の検査!」


先生 「しました! 肝臓に異常はない!」


魔女 「よかった・・」



先生 「よくないよ! この貧血が続けば死にますよ!」


魔女 「その時はこの私が看取ります!!」




もう・・ 互いが苛々のぶつけ合い状態



処置をして薬を処方して貰い、ついでに《ユリぼうず》の処方食を買い

《ジンジン》の目薬(タリビット)も買って



先生 「▼+λ≒-α円!」


魔女 「はいよっ!」



貰った診察明細書を《ユリぼうず》のご飯が入った袋に乱暴に突っ込み

さっさと病院を出て家路につく

《キリット君》は相変わらずキャリーケースの中で横たわっていて・・



家に帰って《ユリぼうず》のご飯を袋から出して仕舞おうとしたら

そのご飯と一緒に処方食の試供品が大量に入れられているのに気づく


それと一緒に出てきたのは

初診料もなにもなく、格安の検査料と、他の病院より¥1000も安くなっている処方食の代金の明細書だった




これより、魔女の意地を賭けた看病生活が始まる


誰が死なすか!!